転生してきた赤ん坊07
「まったく、何回言えばカミュールはミルクの適温を覚えるんだい‼︎ 毎度毎度、熱過ぎるんだよ‼︎」
ミストさんがラル(赤ん坊)にミルクを与え終わり、寝かしつけながらカミュールさんに愚痴を言う。そしてこれをきっかけに恒例のバトルが今日もまた始まるのだ。
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そうそう、この赤ん坊は男の子だったので名前は【ラル】にした。勿論『ミストラル』さんから文字をいただいたのは言うまでもない。それでも最後までカミュールさんは「もぅ〜決めたんですぅ〜‼︎ 師匠と私の一字を取って【トール】にするんですぅ〜‼︎ そぉ〜決めたんですぅ〜」と駄々をこねていた。しかし最終的にミストさんの「それは本当の子供につけな‼︎」で我に返った。「……そ、そうよね。よく考えたら師匠との愛の結晶はこれからですもんね」とミストさんに軍配が上がりカミュールさんはトールの名前を断念した。
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「そんなことより、いつまでミスト母さんは、しれっとココに居座っているんですかぁ〜⁉︎ 私と師匠との夢のスイートホーム計画が台無しじゃないですか‼︎ そこは空気読んでくださいよ‼︎ 大精霊なんだから、霊でも呼んでくださいよ‼︎ そしてこの家全体に結界でも張っとけばいいんですよ‼︎」
「バカ言ってんじゃないよ。あんたみたいな家事もろくに出来ないお転婆が、嫁気取りなんて100年早いんだよ‼︎どうせ、食事も作れないくせに‼︎」
「くぅ〜……怒りますよ‼︎ いくらミスト母さんでも関係なく怒りますよ‼︎」
「上等だよ、私も怒るよ‼︎ 300年ぶりに本気で怒るよ‼︎」
「あ、あの〜二人とも、落ち着いて」
「黙ってて‼︎」
「黙ってな‼︎」
どうしてこうなったぁ〜⁉︎ なんで二人とも本当に俺の家に住んでるの⁉︎ そして毎日毎日、なんで嫁姑問題みたいな展開に発展してんの⁉︎ そして、なんで俺は婿養子みたく発言力ないの⁉︎ そして、なんで俺に怒る時だけ綺麗にハモっているの⁉︎
……と、まぁ〜いつもこんな調子で、俺の意見など二人の耳に入るはずもなく、とりあえず口喧嘩がおさまるまで、その場で静観していることにしている。とてもじゃないが、外に出るような素振り少しでも見せたら、怒りの矛先が俺に来るのは火を見るよりも明らかだった。……つまり喧嘩の時間を長引かせない為には、ただ黙ってその場にいる。それが、俺がこの奇妙な共同生活⁉︎ を始めて最初に学んだ事だった。
ぞんぶんにお互いの言い分が終わり、ようやく終息しそうな頃を見計らい、俺は二人に出来立てのコーヒーを差し出す。いわゆるこれが終了の合図である。
「師匠〜ありがとうございます〜。もう幸せですぅ〜」
「トウタにしては、ようやく私好みの味を覚えてきたようだねぇ。合格点をやろう‼︎」
ここまで日常化すると、もはや喧嘩というよりただのストレス発散としか思えない。二人して楽しんでるとしか思えない。その分、俺の神経がヒリヒリするのは、まだまだ未熟な証拠なんだろうか⁉︎
ただいつにも増して、喧嘩⁉︎後の二人の機嫌がいい。前々から聞こう聞こうと思っていたものの、なかなかタイミングがつかめないでいたが、意を決して聞いてみた。
「……ミストさん、一つ質問してもいいでしょうか⁉︎」
「なんだい⁉︎」
「俺(自分の家なんで強気な一人称に戻した)も最初から感じていたんですが、ラルの事です。転生直後にまだ精霊と契約もしていないのに赤ん坊が魔法を発動する理由です」
「確か、帰還中にも師匠は言ってましたもんね。『可能性は一つしかない』って」
「そうなんだ。あれから、暇を見つけては何度も過去の文献を読み直し、あらゆる可能性の模索した結果、やっぱりこれしかないんじゃないかと」
「ほぉ〜〜トウタ、ではその結論とやらを言ってみな」
……ミストさんが軽くプレッシャーをかけてきたのがわかった。