転生してきた赤ん坊01
「次の方、どうぞぉ〜こちらへ」
「……な、なんだって‼︎」
「どうしました⁉︎師匠〜」
「緊急事態だ。カミュールさん、急いで‼︎」
「あ、はぃ」
言われるがまま師匠の後をついて行った。転生魔法において、これほど師匠が驚いたことは記憶にない。もしかして私は、転生魔法を失敗してしまったたのかしら。転生者は大丈夫かしら⁉︎……そんな不安を胸に転生者が出現する一番霧の深い位置へ走った。
「え⁉︎こ、これは⁉︎」
「そう、赤ん坊だ。赤ん坊が転生して来た」
「ど、どういう事ですか⁉︎ 私の転生魔法が失敗したのですか⁉︎」
……わけがわからなかった。とんでもない失態を私はしてしまったのだろうか⁉︎ これまでの詠唱手順となんら変わりがないはずなのだ。準備から魔法発動においても特に落ち度はなかったはずなのだ。
……そもそも転生魔法によってここに来る方は、私の力の範疇ではない。つまり、実際に来た方がどんな人なのか、魔法を詠唱している私ですらわからない。ただ言えることはランダムアクセスでもないし、適当に呼んでいるのではない。ある一定の法則に基づき転生を行なっている。それでも、この魔法を取得した時に聞いた際の注意点に、赤ん坊の転生というのは聞いたことがなかった。
「それが、、、、そうでもない、、、、らしい」
「ど、どういうことですか?師匠、包み隠さず本当の事を言ってください」
「この赤ん坊は、、、、もう魔法を使っている」
「な、なんですって‼︎ まだ精霊との契約をしてないんですよ‼︎ それなのに魔法を発動してるってどういう事なんでしょうか⁉︎ 赤ん坊が転生して来た事ですら初なのに、即魔法発動の転生者なんて過去において、聞いたことがありません」
「……俺も初めての事さ。完全に想定外だ。ただ、悩むよりもまず、赤ん坊を介抱しよう。カミューさんは、赤ん坊を抱いた事はあるかい⁉︎」
「あ、ありますよ。これでも小さい子や赤ちゃんとのふれあいは多く経験してきました」
「よかった。では、まず体を拭いて、大人の服をタオル代りに全身に巻こうか」
「はぃ、師匠‼︎」
……『あります』とは言ったものの、ここまで小さい赤ちゃんとは関わったことがなかった。どう見ても生まれて間もない状態で、絶対に母親が必要な時期。それが、転生されたという事は、……こんなにも、生まれたばかりの命が、前世において、……
「カミュールさん、今は経緯を悩む時じゃない。それよりも手を動かして‼︎ 急いで赤ん坊の体調を調べて‼︎」
「わ、わかりました」
「いいかい、事情が変わった。今すぐここを撤収してミストラルに戻る。俺は魔法痕跡の浄化をするんで、カミュールさんは赤ん坊を頼んだ‼︎」
「わ、わかりました。師匠‼︎」
冷静に赤ん坊を抱いていると本当に『か弱い』のがわかる。手足はプニプニして柔らかいのだが、あまりにも小さすぎて軽すぎて少しでも力加減を間違えて抱くと、壊れるのではと不安になってしまう。それでも赤ちゃんの全身に血が巡っているのがわかる。鼓動を感じる。体温を感じる。目は開いていないが、泣くこともせずただじっと眠っているだけなのだ。そして、その小さな両方の手のひらをしっかり握りしめ、自身を守っているような姿にこれまでにない衝撃を覚えた。生命に対する凄さを感じた。
……この子は、生きたがっている。確かに生きようとしてるんだわ。
私は無意識に涙が溢れてきた。まだ自身の結婚やら妊娠は先の事だと思っていた。ざっくりとした未来において家族団欒の願望すらあれ、こんな小さな赤ん坊を抱くなんて事はもっと先のことだった思っていた。それがまさか、このタイミングでこんなにも愛しさに溢れるみたいな気持ちになることに、私自身が信じられなかった。……これが『母性』という感情なのかしら。
「師匠〜、わ、私は、、、」
「……よし完了だ‼︎ カミュールさん、話は後だ‼︎ 早く、ここを撤収しよう」
そう言って動揺している私に対し、優しく手を差し伸べてくれた。




