転生魔法の秘密04
「痕跡をわざと残しているとは、どういう意味なんだんだ⁉︎」
「……人を『転生させる』などという、未知なる魔法を信じる事は到底出来ません。ですが、仮に存在したとして、それほどの高度な魔法ならば発動における周辺干渉は必ず起きます。そしてここがその現場であるならば、魔法残存跡で何系統の魔法を使ったのかは我々解析班であれば容易に解るのです」
「だろうな。その為の解析班だ」
「おっしゃる通りです。しかし、この跡は違和感があります。まるで『解析出来るものならばやってみろ‼︎』と言わんばかりなのです」
「お前が相手を高評価するとは珍しいなぁ〜。しかし相手が素人で、そこまで判断が及ばないのではないか⁉︎ いささか過大評価ではないのか⁉︎」
「いえ、逆だと思います」
「ど、どういうことだ⁉︎」
「相手はこの場所をいずれ察知されるのを想定しています。その上であえて少しだけ痕跡を残し、需要なファクター(要因)には絶対にたどり着けないように削除魔法【デリート】をかけています」
「削除魔法【デリート】など、お前らにかかれば、お手のものだろ‼︎ 復元魔法【リカバリー】で修復すればいいだけだろうが」
「……ですが、それだけではないのです」
「……な、なに⁉︎」
「削除魔法【デリート】の上にさらに何か別の魔法を『上書き』しています」
「う、上書きだと⁉︎」
「さ、さらに、、、」
「ま、まだ、何か問題があるのか⁉︎」
「最初の転生魔法痕跡に削除魔法【デリート】をかけた上に、さらに別魔法を『上書き』する。これは『削除』よりもタチが悪いのです。解析パターンが『倍』ではなく『自乗レベル』で増えていきます。こんな複雑に混ざった魔法の痕跡を戻す方法は現在確立されていません。さらに、削除魔法の最上級魔法である浄化魔法【オールクリーン】までもを、重ね書きしているようなのです」
「な、なんだと‼︎」
「削除魔法だけ、浄化魔法だけ、……いわゆる単体魔法であるならば我々解析班は解析可能です。通常、削除魔法には復元魔法【リカバリー】、浄化魔法には遅延魔法【スローモーション】で解析を可能にする条件は整うのです。事実、我々解析班の魔法復元率は98%という高い精度があると自負しています。……しかしながら、この複雑な3重鍵のような魔法の前では、我々では歯が立ちません。あまりにも魔法痕跡が『混ざり過ぎている』のです。恐れながら、これを解析できる魔法士はおそらく我が国には存在しないかと」
「んぐぐ」
「こうなるともはや、魔法残存跡すら持ち帰ることは不可能です。これだけ複雑な重ね書きの浄化魔法に対して復元魔法や遅延魔法ですら効果はないでしょう。つまり痕跡情報を持ち帰り、時間をかけての解析すら不可能なのです。時間が足りません。恐らくあとで数十秒で残っている痕跡は完全に消滅します。最初に『わざと残しているよう』と言ったのは、この浄化魔法はいわゆる『タイマー付き』なのです」
「な、なんだとぉ⁉︎」
「ワイルドモンス【少数の凶悪モンスター】は、ここら一帯が猛毒胞子のせいで、この場所には100%近づきません。従って我々他国の者が意図的に痕跡エリアに侵入した時点でセンサーが作動する仕組みなんです。その上でわざと浄化魔法を見せているのです。じゃないと、偶然我々が見つけた瞬間から、痕跡が消滅し始める理由が見つかりません」
「……あははははは〜」
「ガガビー様⁉︎」
「つまりあれか……複数の解毒魔法【デトックス】に未知なる『転生魔法』、『削除魔法』に上書きした『不明な魔法』に『浄化魔法』、さらに時間差発動魔法【アラーム】と周辺感知魔法【センサー】まで、使いこなしていると言うのか⁉︎……これほど大掛かりな手間をかけてまで守るべき価値がある魔法かぁ〜。これは確かに興味がわいてきたなぁ〜。そして、同時に我々に対して『未知なる脅威』というプレッシャーをかけてきている」
「……」
「思ったより、ミストラルは侮れないなぁ〜。……よし‼︎ 今回は、ここまでだ。引き返すぞ、レスク‼︎」
「はっ‼︎」
「え⁉︎ 俺は⁉︎ 俺はどうなるの⁉︎ 嘘は言ってないんですよ〜本当に『2人』だったんですよぉ。信じてくださいよぉ〜」
「解析班の見立てから、お前が確認出来なかった大勢の別部隊存在の可能性の方が大きい。とても2人ではこれだけの多くの魔法発動は不可能なのだ。お前には教えてなかったが『1人に1同系魔法』。それが現代魔法における大原則だ……しかし、そんなことはどうでもいい。お前にはまだ使い道がある。一緒にこい」
「……は、はぃ」
補足です
削除魔法【デリート】魔法を打ち消す魔法。
浄化魔法【オールクリーン】魔法を取り除く魔法。
2つの違いは、削除魔法は魔法残存跡が残る。
浄化魔法は、魔法残存跡が残らないデリートの上位魔法。
こんな手間をかけず最初から浄化魔法をやれば、痕跡も残さず、魔法の存在も隠す事が出来ました。ではなぜ今回、ここまで手の込んだトラップを仕掛けたのか!?それはトウタ君がカミュールさんに話をした、転生魔法場所を移動する理由の④と⑤に該当します。『真実に嘘を混ぜる』と『情報操作をして撹乱する』です。そして転生魔法の秘密はまだあります。それは近いうちに公開します。




