転生魔法の秘密03
およそ人やワイルドモンス【少数の凶悪モンスター】が立ち入らないであろう場所。それを証明するかの様に足跡や気配が一切なく緑色というより厳粛な蒼き草木が空を隠すように生い茂る。天からは微かな木漏れ日が指す程度で、それ故に、日中にもかかわらず肌冷たさを感じずにはいられない……そんな静寂に吸い込まれそうな森の奥まで来ていた。
周囲を何度も見渡し、そして納得したように大きく頷き、そして一度ゆっくり深呼吸をして、男はこう発言した。
「間違いない‼︎ この先です‼︎ 確かにこの辺りで『俺』はこの世界に『転生』してきたんですよ」
こいつは『転生魔法』とやらで、この世界に連れてこられたと戯言を言い、我がサウスクラウド国に亡命してきた。最初は言語もわからず、それでも数日をかけなんとか会話が成立できるまでの言語は覚えさせた。それでも所々(ところどころ)意味不明な言語を喋ってくる。名前や身分所属なども確認出来ず、流石に付き合うのもばからしくなって、部下に後始末を任せようとした瞬間……この男は『ミストラル』と言う単語を発したのだ。その一言に我輩の興味は唆られた。こいつの話に乗ってやるのも一興だと考えた。そしてこの男を案内役に、我が第一守衛団を動かし、今まさにコイツが目指した場所についたらしい。
「……どうしてココだとわかる⁉︎」
「ミストラルの住人と名乗る者と交渉決裂して、そこから移動した距離と方角を正確に覚えてました」
「ほぉ〜なかなかの帰巣本能だ」
どこか怯えながらも、それでいて目力はある。どうやらこいつの言う事は、この件に関しては本当かもしれない。
「……しかし実際に現場とやらにに来たものの、『転生魔法』とはにわかには信じ難いなぁ〜。現代魔法の知識では考えられない事象だ。そして、本当にここなのか⁉︎ ここでその転生魔法とやらが使われて、お前がこの世界に来たのか⁉︎」
「だから、何度も言っているじゃないですかぁ〜。嘘は言ってませんってば」
「おい、貴様‼︎ 口の言い方に気をつけろ‼︎」
レクス守衛団部隊長補佐が、この男と我輩との会話を遮った。
「すみません。だ、だって、俺は『この世界の言葉に』まだ慣れてないだもん。そこは許してくださいよ」
「しかし、ここからミストラルまでには相当な距離があるではないか。こんな離れた場所で、実際にそんな魔法を詠唱するものなのか⁉︎……どう思う、レクスよ」
「はっ、ガガビー様‼︎ 恐れながら申し上げます。周辺を調べたところ、この森の至るところに、猛毒胞子が充満しています。まともに吸えば人どころかワイルドモンス【少数の凶悪モンスター】ですら、命の保証はありません。現在親衛部隊化学班総出の7人で解毒魔法【デトックス】を放出していますが、我々ですらこの地の長時間の滞在は危険です。ましてその男が言うように、魔法を発動させた同行者が『たった二人』ということは絶対に不可能だと思います。おそらく10数人は関わっていると思われます。」
「本当ですって‼︎ 本当に2人しかいなかったんですよぉ〜。信じてくださいよぉ〜」
「……確かに、一人は転生魔法を詠唱するのだから、護衛が一人だけというのは、いささか不用心だと考えるのは妥当な線だ。姿は見えずとも、レクスのいう通り、最低でも20数人がいたのは間違いないだろう。お前もこの後に及んで今更、嘘はつくなよ!!命を覚悟して、言葉を選んで真実だけを告げよ。そして少しでも不穏な態度を取れば、それまでだと思うがいい」
「……本当なんですってばぁ〜信じてくださいよぉ」
「それよりどうだ、痕跡はあるか⁉︎」
「……確かに魔法を使用した痕跡はあります。し、しかし、それよりも、いえ、、、、」
「どうした⁉︎ 最後まで言ってみろ‼︎」
「はい、どうやら、わざと残しているようなのです。その……痕跡を」
ガガビーはこの場所を見つけ興奮覚めやらない男とは逆に、普段見ることのない青ざめたレクスの顔を見て、ただ事ではない状況を察した。




