精虫族(ワスピー)20
門付近ではミトさんとスタンプ先生、そして十数人のミストラル精鋭衛隊が精虫族と交戦をしていた。そして交戦中にも関わらず、ミトさんはアギト達に向かって大声で叫んだ。
「ケイとモモは私と一緒に来るんだ。後はこの辺を任せたよ」
「わかりました」
「わかりまちた」
二人は移動中のプラタナスから素早く飛び降り、すぐさまミトさんの方へ向かう。それに対して雑な指示を受けたスバルは面白くない。
「なんで、僕も呼んでくれないんだよ⁉︎」
スバルはモモちゃんが飛び出していく同じタイミングで、プラタナスから飛び降り、そのままモモちゃんの後ろを追いかけながら愚痴を叫ぶ。
「今は、仲良しごっこしている暇はないんだよ。適材適所が急務なのさ。あとは各自で考えな」
そう言ってミトさんはケイとモモちゃんだけを連れて、門の中へ入っていってしまった。残されたスバルは、頭で理解していても、納得が出来ない。それに対し少し遅れて来たアギトがミトさんの言いたかった事の補足をスバルに伝えた。
「俺たちがやらないといけないことは、この門の中に精虫族を入れないことだ。それはわかっているだろう?」
「そんなこと言われても、奴らは空を飛んでいるから門なんて関係ないじゃないか?」
「そうじゃない。わかっているくせに……いつまでもへそを曲げるなよ」
そう言って、アギトはスバルを諌めながら、襲って来る精虫族の攻撃に対処していた。
実はミトさんからの事前連絡で、ブロックフローの街中の至るところに卵があることが分かっていた。つまり精虫族は街の上空から堂々と戦いは出来ないのだ。なぜなら、卵まで被害が及ぶ可能性があるから。だから大群で上空で待機しつつ門から侵入し、街を占拠しようとする作戦をとっていた。
一方、門の付近で交戦しているプラタナス達は、葉刃魔法で上空の精虫族を迎撃し、接近して来る敵に対しては、アギト達が対処していた。それは予め決められたフォーメーション。そしてジンカイの予想通り、アギト達の能力は精虫族達を遥かに凌駕していたので、精虫族集団による圧倒的な数の攻撃に対しても全く見劣りをしなかった。
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すでに街の人々もこの異常事態に気付いていたが、城からの緊急連絡で家の外に出ない命令がくだっていた。外に出られては敵の思う壺になるのは明白で、それを事前に防ぐ命令が精虫族が来る前に周知されたことは結果的に町全体がパニック状態にならない要因であった。
一方各所で戦闘や卵の消滅作業が行われている中、ミトさんはケイとモモちゃんと共にブロックフローの中心を目指していた。当然、ミトさん達に気付いた精虫族が向かって来る。モモちゃんは既に能力向上魔法Ver.2を発動していて、ミトさんとケイに近づいて来る精虫族達を何なく迎撃していた。
詳細に説明すれば、羽の付け根だけをピンポイントで狙い撃ちしている。移動手段が縦横無尽な精虫族に対しモモちゃんは、それを上回る最小の動きでこの一連の動作を行っていた。
「モモちゃん、ありがと〜」
「あぃ。もんだいないでちゅ」
ケイは走りながらモモちゃんに感謝の言葉をかける。そしてモモちゃんも戦闘をしながら、返事をするのだ。まだまだモモちゃんに余力があるのがわかる。
それでも攻撃タイプではないケイはミトさんにふと質問をする。
『なんで私なんですか?私はてっきりアギト達と一緒に戦うのだと思っていました」
それに対してミトは冷静だった。
「事態は常に変わるのさ。実際、ここまで街の上空を精虫族に占拠されるとは思ってもいなかった。出来れば水際対策……街の外で戦うのが理想だったのだが、遅かったのさ」
「そうだったんですね」
ケイは走りながら自分の役目を考えていた。私の手持ちの魔法は新しく覚えた回復魔法と強化したとはいえ半径60~80m囲内における音波魔法。普通に考えて負傷者の多くいる場所へ向かっているのだと思っていた。
「それでどこに負傷者がいるんですか?」
「……なるほど。だがあんたの思惑は残念ながらハズレだよ」
「え?」
「あんたの役目はこの上空にいる無数の敵を『落とす』事さ」
ミトさんは、ケイの考えていた事の逆を求めていた。ケイもジンカイさんに教わった新音波魔法は精虫族に有効だとは思っていた。しかしコレだけの無数の敵、そしてコレだけの広大な範囲は、とてもじゃないが私一人ではカバーしきれない。だから、まずは回復優先だと判断した。だからこそミトさんの意見に同意出来なかった。
「でもあたしの音波魔法は、この街全部を覆う程の広さなんて無理ですよ」
それに対しミトさんはあっけらかんと返事を返す。
「そんな事はケイの心配する事じゃない。なんの為にわざわざミストラルから部隊を連れて来たと思っているんだい」
「それなら、私なんて必要ないのでは?」
「そうじゃない。ジンカイから直接手解きを受け継いだのはケイ、あんただけなんだよ。あんただけが精虫族の連絡手段である周波数とその対抗策を知っている。そしてその周波数をピンポイントで電波妨害出来るのはケイしかいないんだよ。ミストラルからの援軍はその電波妨害を広範囲に増幅する拡張魔法の使い手なのさ」
「そうだったんですか」
「ケイおねえちゃん、すごいでちゅ」
「実際に、電波妨害魔法も使える連中はいる。でもね、周波数の幅が広すぎて、精虫族だけでなく、我々精霊の連絡手段まで妨害してしまう可能性があるんだよ」
「……わかりました」
特訓前にケイがコテージ で回復魔法を習いたいとミトさんに懇願した時、ミトさんは回復とは別に、ケイのもう一つの可能性を考えていた。それが今、現実的に起死回生の切り札になろうとしていた。




