精虫族(ワスピー)14
「俺はね、久しぶりに本気で怒っているんだよ。前回の交渉において決裂はまだ納得出来る。しかし、俺の話を途中で遮り一方的に中断しておいて、その裏でもっと大事な交渉危機に気づかないあの大バカ野郎に、一言物申す資格が俺にはある」
「そ、そんな理由で?」
「敢えていうならば、このまま占領されてブロックフローが滅んでも、いずれ俺たちの夢の邪魔になる。ミストラルは変革しなければならないが、その過程で精虫族が脅威になっては困る」
めちゃくちゃな理論だが、ここまでキレたジフリークはもう止められない。かつて1度だけキレたジフリークを3人は知っていた。9年前、ジフリークの父ジンカイだけが捕まって、国外追放された。その際、母親とジフリークの関係はリンカー連中には隠していたのだ。当時ジフリークは母と子2人でネイトとして暮らしていた。そしてネイトとリンカー抗争が一段落した半年後、母が病死する間際に父の存在と処遇を母から直接知らされた。
ジフリークはこの時から自国を信じなくなった。そして自分で新しいミストラルを創ると心に決めたのだ。当時から仲間だったマサシ、アミ、タケツグですら、最初はこんな絵空事を信じてはいなかった。しかし、その後のジフリークの成長を見続けて、こいつは口だけではないと理解し、次第に全幅の信頼をするようになる。
現に、進行形で革命を起こそうとしている。それはジフリークとの9年を知っているからこそ、互いに信じている4人の紛れもない純粋な絆に他ならない。
「さぁ〜急いでブロックフローに行くぞ。そしてここからが本当の戦いだ‼︎」
「行くのはいいけど、もう俺たちはブロックフロー国の中に入れてもらえないだろう?」
「そうだろうな」
「そうだろうなって……まさか?」
「……キレてるジフリークを見たら、もう答えは出ているようなもんじゃない」
アミだけがこうなった時のジフリークの行動を冷静に分析している。だからこそ今後の展開を理解しているような口ぶりで反論した。
「……ミストラルを無許可で出国した時点で覚悟はしていたんだけど、まさかブロックフロー国まで喧嘩を吹っ掛けようとするとはな。でも、俺も覚悟を決めないとな」
「そんなのは、とっくの昔に腹を括っているさ」
「そうよ。今更、当たり前の事言わないでくれる?」
マサシは正直なところ、あまりに突拍子もない出来事の連続で理解が追いつかないというのが正直な感想だった。それでも神経が昂っていく感じを押さえきれず、自虐的なネタを挟む事で誤魔化そうとしたが、あまり意味をなさなかった。
こうして4人はブロックフローへ向かう事になる。前回は正規のルートを経て中に入ったが、今回は正面から外壁を経由して侵入する事になるだろう。当然、警備の連中はいるし、防御陣形もしっかりしている。連中の言葉を借りれば『魔法感知も万全』だという。しかし、この言葉にすらジフリークはそもそも疑問を持っていた。
「魔法対策はハッタリだ」
移動中ではあったが、意思疎通を確認したかったジフリークは自論を述べた。
「どうして?」
「仮に防壁上部の装飾全部が『魔法感知』ではなく『卵』だとして、どうやって運んだと思う?」
「え?それは、精虫族が飛んで運んだんだろう?」
「そうだよな。では、いつ?」
「いつ?……どういう意味だよ?」
「ブロックフローの国民は一部を除いて精虫族の存在を知らない。だから、卵の事も知らないはずなんだ。ならば日中堂々と運搬出来るはずがない。深夜になるまで待ち、防壁上部に配置したと考えるのが妥当だ」
「まぁ〜そうだろうね。でも、それと魔法対策とどう関係があるの?」
「魔法対策が万全であれば、侵入者が国内に入れるはずがない。例えば、精虫族にだけ無効な魔法対策という可能性もあるがそれはまずない。つまりフランガルを含め、奴らは魔法感知に関しては無知なのさ」
「確かにそういう推論は成り立つけど」
「でも防壁の上部にある『卵』が間違いで、本当に『魔法感知専用の装飾』だったら?」
「その時はその時さ。無断侵入で数日監禁されるよ」
「そんな気もないくせに、よく言うよ」
「さぁ〜余談はここまでだ。急ぐぞ」
例えば4人におけるパーティー構成において、リーダーが無鉄砲だったりする場合、残りの連中が後始末役だったり、聞き役だったり、冷静でいられる人物がいる事で全体としてまとまることがある。偶然にもこの4人はそういった役割で構成されていた。だからこそ刻々と変化する現況に対して、揉めてもすぐに結束出来る柔軟さがあった。
4人は会話をやめ、より急ぐ為に加速魔法を駆使して再度ブロックフローに向かって行った。
 




