転生魔法の秘密02
「4つ目はさっきも言ったけど、交渉時に最低限の情報しか伝えていない。ミストラルは転生という未知なる魔法を使っているらしいが、真相は定かではないらしい。そういう情報が伝達すればするほど尾ひれがつき噂になるんだ。だって、言われた通りの場所に行っても何も痕跡がないんだから、そりゃ疑心暗鬼になるよね」
「なるほど〜。つまりある程度の真実味を混ぜた不確かな情報を流す事で、逆にミストラルの不気味さを煽るわけですね。過剰な噂となって相手は容易に攻めこれないという事ですね」
「未確認ほど怖いものはないからね。ただ戦争前提じゃないにしろ、協定、同盟、交易において、歴史が浅いミストラルが他国と交渉する際の切り札の一つにはなると思っているよ」
「だから、転生者全員を『強引に説得して』ミストラルの住民にするわけではないのですね」
「もちろん、理想は全員住民になって欲しいよ。でも、理想だけでは平和を保つことはできない。だから、事前事後に対する準備が必要なんだ。想定が必要なんだよ」
「さすがです。師匠〜大好きです〜〜」
「そして5つ目」
「え〜〜‼︎ まだ、あるんですか⁉︎」
「転生魔法の発動には複雑な詠唱以外にいくつか条件がある。ざっくりいえば近くに綺麗な水辺がある場所。静かな場所。雨の降ってない日。そして詠唱自体は1日に2回しか使えない事」
「……つまり魔法詠唱だけでは発動しない条件にしてるんですね。簡単に盗まれない為に発動条件を複雑にしているんですよね」
「盗まれないというか、転生魔法があまりにも高度すぎて無条件では発動出来ないというのが正解なんだけどね。この魔法のメインは精霊との共有が肝だからね」
「そうですよね。私もいつもみんなに支えられている気がしますよ」
「それは良かったね」
「もちろん、師匠が支えてくれるのが一番ですよ」
「は、話を元に戻すよ。……そして、この『条件』というのが非常に厄介なんだ」
「どうしてなんですか⁉︎」
「他国にも当然、魔法解析を得意とする連中はいるはずなんだ。そして転生魔法の痕跡から、場所を特定されてしまえば、自ずとその発動条件にも辿り着くだろう。だからその痕跡場所にダミーを混ぜる事で情報を混乱させるんだよ」
「どういうことですか⁉︎」
「ミスリードという言葉を知っているかな⁉︎」
「いえ、聞いたことがありません」
「これは、わざと誤った方へ誘導するという意味なんだ。つまり転生魔法を行ったという『偽物の場所を作るのさ』……するとどうなるか⁉︎本来、条件が合っていない場所で発動痕跡が見つかれば、当然ここでも発動可能だと思い込む。つまり転生魔法における発動条件をどんどん複雑にしていくんだ」
「たった一つの魔法の為に、ここまでの策を練るのですね」
「例えばね……この前交渉決裂してしまった場所の森は、猛毒胞子が散布するシダやキノコが多く生育していてね。あまりにも危険な猛毒で人はおろかワイルドモンス【少数の凶悪モンスター】すら立ち入る事が不可能なエリアなんだ。でもね、7日のうちたった2時間だけ、この猛毒量が急激に激減する時間がある。それもほぼ無害な状態まで沈静する」
「へぇ〜〜そうなんですか。知らなかったです」
「完全には消えないが毒が弱まった事で、十数メートル範囲なら俺一人の解毒魔法【デトックス】で除去する事が出来るんだ。ところがそれ以外の時間ではおそらく10人以上の態勢でないと、この莫大な猛毒胞子群の中を侵入する事は出来ない。つまり自然の摂理すら利用する事で相手を惑わす事も出来るのさ。この転生魔法には、より多くの人数が関わっているという錯覚を起こす事が出来る」
「さすがです。全ては転生魔法の為ですね」
「もちろん、転生魔法の流出阻止も大事だけど、何よりも詠唱者のカミュールさんを守る方が何倍も大事なのさ」
「キャァ〜〜嬉しぃですぅ。師匠〜大好きですぅ」
私は、正面から思いっきり師匠に抱きついた。師匠は照れながら嫌そうにしていたが、抵抗はしないので腕を背中まで回しそのまま抱きついていた。いつも私のアピールには無視なのに、ここまでちゃんと私の事を考えてくれていることに、感謝の気持ちでいっぱいになった。私は、ふと師匠に聞こえないくらいの声で『ありがとうございます』と囁いてみる。……普段の『大好き』とは違い、こういう時のこういう言葉ほど恥ずかしいものはなく、私はその気持ちを誤魔化すために、より強く師匠を抱きしめた。
 




