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最初に言っておく‼︎ 転生者はキミだけではない‼︎  作者: クリクロ
第二章 『動き出した思惑編』
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パワーバランス20

 アギトの体力が回復するにつれて、徐々に視力に特化した記憶解析魔法スキャンの精度は上がっていった。そしてそれ以上の変化が現れ始めていた。それは瀕死を乗り越えた事での危機察知能力だった。


最初は微かな変化だった。朝食を取る為に寝室から廊下に出た時点でふと朝食に何が出されるのかがわかったような気がした。そして実際に大食堂に着くと予想通りの献立だった。


それ以降、些細な音や風が肌を刺す感覚などが以前より鋭敏になったのを実感するようになる。つまり五感による情報収集がより鮮明になってきたのをアギト自身、日に日に感じるようになっていた。


五感とは『視覚』『聴覚』『触覚』『味覚』『臭覚』の総称。これらを総合的に解析する事で、俗に言う気配や不穏を感じ取ることが出来ると言われている。


アギトの記憶解析魔法スキャンは、これまで視覚に100%頼りっぱなしの状態だった。つまり見えているものが全てという考え方。それでも実際には微弱ながら聴覚や触覚など他の感覚も無意識で使用していた。ただこれまではアギト自身がそれに気づく事はなかった。


 先日のトネリコとのプロレス勝負。アギトは視覚に頼りすぎていた。だからこそ見えない部分、つまり死角から攻撃されると何も出来ない事が露呈した。しかし戦闘終盤、片目が塞がれ視界がほぼ見えない状態の中、アギトはヒントというかきっかけを掴んでいた。トネリコの鞭のような枝の攻撃が来る際の風圧や空気を切り裂く音、緑の匂いを、奇しくも目を怪我した事でより鋭敏に知ることが出来た。


さらに、この湯治場でたった一人で過ごす事で、『気付き』は『確信』に変わる事になる。自然の中に自分が存在している事で、風を感じ、音を感じ、温度を感じ、湿度を感じ、空気を感じるのを理解し始めた。


情報を入力する部分はなにも『眼』だけではない。五感を今よりも駆使すれば、記憶解析魔法スキャンの精度はより向上するのではないか? この結論にたどり着いたアギトは『情報』とは目から入る映像だけではない事に、この湯治場に来て学ぶことが出来た。


……まさか、ジンカイさんはここまで想定して俺をここへ向かわせたのか⁉︎


「まだまだ俺はてのひらで踊らされているんだなぁ〜」


そう呟きながらアギトは温泉に浸かりながら天を見上げ感慨深くなる。悔しいとかそういう気持ちではない。自分のやるべき事がなんなのか?その答えを教えてもらうのではなく、環境を与える事でその先を導いてくれる。ジンカイさんの懐の大きさにあらためて感服していた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 アギトが湯治場で単独行動をとり始めて10日あまり。ほぼ体力も完治し始めた頃を見計らって、ジンカイさんとみんなが湯治場へ行く計画をしていた。この事はサイプライズな仕掛けだったので、事前にアギトには伝えなかった。



そして当日、みんなドキドキで湯治場へ向かうのだが玄関先でプラタナスとアギトがみんなを出迎えに待っているのを目にする。その光景を見てジンカイさんはアギトが次のステージに上がった事を確信したのだった。


……さすがにアギト君だ。私の趣旨を見事に察し、覚醒したようだね。


一方で、スバルは驚かす気満々でいたので、肩透かしを食らった気分だった。仕方ないので、その不満を論点を変えてアギトにぶつける。

 


「こら〜アギト‼︎ なに一人でこんな良い場所を独占してんだよ。恵まれ過ぎだろ‼︎」


「つか、これってアギトが出迎えている時点でドッキリ失敗じゃないか‼︎」


「まぁ〜最初から、こんなの通用するわけないと思っていたけどね」


「確かに記憶解析魔法スキャン持ちのアギトには無謀なドッキリだよ。でも、万全じゃない今だからこそ、成功の可能性があったのに……」


「もうだいじょうぶなんでちゅか?」


モモちゃんまでもが心配してくれている事に、不甲斐なさと恥ずかしさをアギトは覚えた。


「おかげさまで、ほぼ完治したよ。みんな心配してくれてありがとう。さぁ〜とりあえず、中に入ってよ」



「お前は番頭か‼︎ 言われなくても入るわ‼︎ そして速攻、温泉にいくわ‼︎」




 それからは、すぐいつものような和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気になった。ジンカイさんは、そんなみんなの顔を見て、やはりアギト君がいるといないではグループのまとまりが全然違う事を知った。リーダーの役割とは、一番はその存在感に限る。安心感で言えばミトさんなんだろうが、それプラス『親しみやすさ』が加わるとそれはアギトしか出来ない。そこには信頼、責任、結果、など求めらる部分はあるが、人知れず努力している事を知っている。


そして努力も成果もひけらかす事もしない。その事をみんなは知っている。そしてそのたたずまいは年功序列の流れを組む高圧的な先輩リンカー連中とは、明らかに一線を画していた。


力で集団グループを押さえつけるのではなく、相手を思いやり同じ目線でいてくれることが、みんなにとっての何よりの安心感に繋がっていた。

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