パワーバランス16
特訓と称しみんなは森林大会場に向かう日々が続く。だが激闘の日から3日目の朝になってもアギトは目覚めなかった。プラタナスの『後は時間が解決してくれます』の言葉を信じるしかないとはいえ、次第にスバルたちは感情の変化が出てきた。
「流石に寝過ぎじゃね?」
と心配から不満への感情が芽生えてきたのだ。
そんなある日、特訓が終わり夕方過ぎにコテージ に戻って来てみると、アギトとプラタナスDの姿が見えないのだ。流石に身勝手が過ぎるとばかりにスバルの怒りが収まらなかった。
「おぃプラタナス‼︎ アギトはどこ行ったんだよ⁉︎。そしてもう一体のプラタナスはどこ行ったんだよ⁉︎」
スバルが急いで庭側の窓を開け半身を飛び出し、外にいるプラタナスに詰め寄る。
「私は皆様と同じ行動を取っていたので、アギト様の事もプラスDの事もわからないのです」
「プラスDってなんだよ⁉︎ そこは略さなくてプラタナスDって言えよ‼︎ つか、コテージ に戻ってみたら誰もいないんだから『プラス』じゃなくて『マイナス』だろうが‼︎」
スバルとプラタナスの噛み合わない話をしている間に、ケイがテーブルの上にある枝を重ねて作った文字を見つけた。急いでみんなを集めて、意見を求める。
(この文字は目を覚ましたアギトを湯治に連れて行くために、プラタナスがみんなに気を使って、書き置きを残したものだった)
「どう見ても『サガサナイデ』としか読めないけど……なんだよこれ⁉︎」
「さぁ〜⁉︎」
「コレ、もしかしてマッチ棒を一箇所動かして別な意味に換えるクイズじゃないの?」
「そんなわけあるか。 つか、マッチ棒じゃないけどな‼︎」
「んじゃさ、あれじゃない。ダイイングメッセージとか」
「いや、確かにアギトは瀕死だったけども、死んじゃいないわ」
「そしたらアギトはどこへ行ったのかしらね⁉︎」
みんながこの文字の真意を考えている
「フフフ……僕にはわかったよ。この名探偵ゲンキがね」
「お前は名探偵じゃないよ。ただの覆面マスク大好きマニアだよ」
「それは僕の推理を聞いてから、反論したまえよ」
「うぐぐ……んじゃ、その推理を言ってみろよ」
ゲンキはうなずきながら、得意げにこのメッセージを指差した。
「犯人はずばり‼︎サガさんだよ‼︎ つまりこれは一文字換えて『サガさんやで』と読めるのさ‼︎」
「犯人ってなんだよ⁉︎ サガさんって誰だよ⁉︎ なんで語尾が『やで』って関西弁なんだよ⁉︎」
「え⁉︎」
「え⁉︎ じゃないわ‼︎『サガサナイデ』をどう解釈すれば『サガさんやで』になるんだよ⁉︎ そしてもっと言えば、二文字換えてるからな」
「ちぇ」
「舌打ちするんじゃないよ。ちなみに、それ推理じゃないからな。ただのこじつけだからな。的外れもいいとこだよ」
『探さないで』の意味はみんなもうすうす気づいていたので、流石にゲンキの意見は擁護出来なかった。
「ミトさんもここのところ戻って来てないし、どうしようもないわね〜」
「ほっとけよ。どうせ、そのうちひょっこり戻ってくるさ」
「そうかもしれないけど……」
この時点で、スバルはアギトの心配に飽きていた。と言うより、他人の心配をしている場合ではなかった。たった数日ではあるがみんなの成長を気にするあまり集中できない日々に苛立ちを隠せない。交渉日に、ジンカイさんとマスカラスに解析魔法に簡単に破られてしまったショックからどうしても抜け出せないでいた。
さらにジンカイさんからは
「スバル君の場合は、あえてノーヒントでいってみようか……フフフ」
とハードルを上げてきた。どんだけ無茶ブリしてくるんだよ‼︎と内心で怒ってみるものの、ジンカイさんには敵うはずがないのでその場の反論は諦めた。
実際問題、あの日にお披露目した新型の解析魔法を開発するのにどれくらいかかっていると思っているんだよ‼︎ それを簡単に見破られ、またすぐに新技を見つけろって、そんなにホイホイ出来るわけないだろ‼︎ 新技の賞味期間短すぎだろ‼︎
自問自答のツッコミをしつつも、スバルは、魔法強化のヒントをずっと探していた。




