美空 元気(ミソラ ゲンキ)01
「そんな説明いいから、早く僕を助けてよ〜‼︎」
「大丈夫だよ〜まずは、おねえさんの話を聞いてね〜」
「家に帰りたいよ〜ここはドコなんだよ〜⁉︎」
いきなりこんな場所で目覚めれば、誰だって混乱する。まして相手は、見たかんじ10〜12才くらいといったところだろうか。不安で冷静ではいられなくなるのは当然のことかもしれない。それでも日々、俺とカミュールさんは転成者勧誘の任務を行う。今回のように、特に動揺が激しい人に対しては、止むを得ず鎮静魔法【リラクル】を使用する事にしている。初対面ゆえのまだ警戒がある状態で『魔法』という手の内の見せるのは危険なのだが、相手を落ち着かせることが急務だと判断し、俺はリラクルを詠唱した。
「いきなりゴメンね〜。『魔法』を勝手に君に使用してしまって。でもこれで少しは落ち着いたかなぁ〜」
そう言って、カミューさんは少年の手を優しく握ってあげた。
少年の顔は硬直から解かれたように、それまでの慌てふためく仕草が減り、次第に落ち着きを取り戻し優しい表情になっていった。小刻みな肩の揺れや足の震えも収まりつつあった。これでようやく話し合いに応じてくれる。
「……ま、魔法⁉︎ おねぇさんたちは魔法を使えるの⁉︎」
「えぇ〜そうよ。すごいでしょう‼︎」
と言いながら、握った少年の手の平の上でキラっと光る粒を出現させた。
「おぉぉ〜すごいや‼︎」
……ここまでくれば、もうカミュールさんの勝ちだ。子供はどんなにマセていようが、駄々をこねようが、目の前で想像以上な事を見せれば、相手への態度は変わる。警戒心は下がり興味深々な子供本来の姿に戻る。それは先住民も転生者の子供も変わらない。純粋に知りたいと思う感情が優先し、それまでの不安を退け次第に好奇心旺盛で無垢な状態に戻っていく。まさに天真爛漫な子供そのものの姿である。
「君の名前は、なんていうのかなぁ〜」
「ゲンキだよ‼︎ 美空 元気だよ」
「ゲンキ君かぁ〜格好いい名前だね〜〜」
「ところで、このおじさんは誰!?」
「お、おじさんって‼︎ 『おにぃ〜〜さん』だよ〜〜!!『おにぃ〜さんの』方がおね〜さんより年下なんだよ〜〜‼︎」
「師匠〜‼︎ 本気で張り合わないでくださいよ〜。相手は幼いんですから」
「あ、……はぃ、すみません」
「だせ〜なぁ〜。おねぇさんの言いなりだね〜。全然、大したことないなぁ〜。もしかして、こんなのがおねぇさんのカレシとかじゃないよね⁉︎」
「キャ〜‼︎ どうしましょ〜。……えぇと……ええ‼︎ そうよ、師匠は私のカレシなんだから〜‼︎ そういう事にしたんだから〜」
「カミュールさんこそ、張り合わないでよ‼︎ なに見栄張ってんの〜‼︎ なに子供に嘘を教えてるの‼︎」
「嘘じゃないですよ‼︎ 私の中では、もう彼氏なんです〜。そして私の中では二人はラブラブなんですぅ〜」
「んじゃ、チューしろよ‼︎ チュー‼︎ 恋人ならチューしろよ‼︎」
「お、おぃ、それは、流石に……」
焦る俺を横目で牽制しつつ、カミュールさんは諭すようにゲンキ君に言い聞かせた。
「あのね。本当に好きな人とはね、適当にチューはしないのよ。ゲンキ君が大きくなって好きな女の子が出来た時にすぐチューしようとすると、嫌われちゃうぞぉ〜。そんなのは嫌だよねぇ〜」
「え⁉︎……あ、うん」
「んじゃ、このお話はこれでおしまいね」
カミュールさんが舞い上がっていたように見えたのは演技だったのか⁉︎ まさか、俺まで騙されたのか⁉︎ この手の色恋話は拒絶しても子供はしつこく食いついてくる。だからある程度、話を合わせ最後に話題をゲンキに転換して諭す流れにしたのか⁉︎ 最初から最後まで読み切って、この展開に持っていったのか⁉︎
……スバルの件の反省をもう活かしたのかぁ〜。さすがだよ、カミュールさん。




