パワーバランス14
特訓を始めるに辺り、ジンカイさんはまずみんなを集合させた。そして一人づつ目の前に立ち、目を瞑り、その場で瞬時に魔法を発動した。みんなはこの魔法が何かはわからないが、おそらく情報処理系の類の魔法だとは容易に想像出来た。
ジンカイさんが一人に対して要した時間はほんの十数秒。おそらくこの短時間で個々の魔法情報を読み取ったのだろう。それを繰り返し行い、全員分終わった後で説明を始めた。ちなみに昨日プロレス三本勝負を行ったアギトとモモちゃんとスバルは、レフリー役をやっていたおかげで、その力量を把握していたので、今日のチェックはみんなより早く終わった。(当然アギトはこの場にいない)
「では、まずはモモちゃんから特訓をしていこう。その代わり他人の特訓を見るのも一つの勉強だと思って、みんなも一緒に説明を聞いてほしい。そして仲間の魔法の本質を知る事で自分にどう利用出来るか?どう連携出来るか?を常に考えてほしい」
ジンカイさんはそう言うと、みんなに一定間隔で10mくらいの円を囲むように指示し、モモちゃんだけを呼びジンカイさんのその円の中心に立った。
「おねがいしまちゅ」
モモちゃんはジンカイさんに対して、それはもう模範的なお辞儀をした。それに報いるようにジンカイさんもまた同様に深々と頭を下げた。この何気ない仕草からもジンカイさんらしさを感じる。人の上に立つ上で一番大事なことを知っている。立場で人を差別しない。たとえ子供のモモちゃんであっても礼儀に対し礼儀で返す。これは魔法指導というより、もはや武道の心得に近かった。
「まずモモちゃんの能力向上魔法はメンバーの中では一番物理攻撃が強いよね。だからこそ荒さが見逃されてきた。ズバリ言えばモモちゃんの魔法はパワーバランスが悪いんだ」
ジンカイさんは昨日のモモちゃんとモクレンの試合でモモちゃんの強さを見切っていた。そして試合後の検査と翌日の朝の検査を担当した事で、ほぼモモちゃんの潜在能力は理解出来ていた。ジンカイさんは、みんなに魔法強化する意味を理解させるのに一番の適役だと判断しモモちゃんを一番手に起用したのだ。
「ぱわーばらんすでちゅか⁉︎」
「まぁ〜これはモモちゃんだけでなく、みんなに言える事なんだけどね」
「僕は大丈夫だと思うんだけどなぁ〜」
ゲンキはその意味がわからず、ポジティブに解釈する。ゲンキに限らず全員がピンときていないようなので、ジンカイさんは少しわかりやすい例え話をし始めた。
「ちなみに、ももちゃんは食事をする時どちらの手でお箸やスプーンを持つかな⁉︎」
「えぇと、ひだりてでちゅ」
「つまりモモちゃんは『左利き』なんだね」
「そうだったんだ〜」
ゲンキが初めて知ったかのようなリアクションをとった。
「そこはずっと一緒にいるんだから気づけよ」
「……気にした事なかったよ」
ジンカイさんは、こういう話をすればこういう流れになると予想していた。気がつかない者はいつまでたっても気がつけない。それではダメなのだ。このような悪循環を打開する為に、ジンカイさんの話にはちゃんとオチが用意されていた。
「これからは物事に対し、当たり前のようにスルーするのではなく観察し考察すると、もっと大事な部分が見えてくるよ」
「そうなのかなぁ〜」
ゲンキのリアクションは微妙だった。
「おそらくモモちゃんはみんなと一緒のテーブルで食事をする時、モモちゃんの左側に誰かが座るとモモちゃんの利き腕である左手と利き腕の右手がぶつかって食事するのに邪魔になる可能性がある事を知っている。だからこれまで、気を使って『意識的に』テーブルの一番左側に座っていた……と思うよ」
まるで、目の前で見ていたような感じでジンカイさんは説明する。
「はい、そうでちゅ」
「マジで〜⁉︎ 知らなかったぁ〜」
「そういう事に気づくか気づかないかで、好感度に差がつくのよ」
ケイはモモちゃんのお姉さん役として、当然その事は知っていた。だからこそ、ゲンキに対して少し意地悪に忠告した。
「んじゃ、これからはモモちゃんの右隣に座るよ」
「もう遅いわよ‼︎ そして、そんな発言はマイナスアピールよ」
ケイの突き放した意見に、モモちゃんを含めみんなが笑った。




