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最初に言っておく‼︎ 転生者はキミだけではない‼︎  作者: クリクロ
第二章 『動き出した思惑編』
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パワーバランス12

「……あの試合は、俺の負けでもよかったのにな」


このセリフは、対戦相手プラタナスへの謙遜でもなく、純粋にアギトの本心だった。トネリコとの戦いは、常に劣勢だった戦況に加え、終盤において致命的とも取れる意識の途切れた自分への不甲斐なさも含まれていた。



「いえいえ、アギトさんの戦いはまさしく激闘と呼べるものでした。そして魔法における新しい可能性を見せて頂きました。なのでジンカイ様は正当な判断ジャッジをなさったと思います」


プラタナスはもてなしの心をもち、礼儀はしっかりしているが、ご機嫌を取るといったお世辞を言うタイプでない。純粋に裏表のない真面目な性格である。だからこそアギトはプラタナスの賛辞に対し、素直に感謝の言葉が出た。

 

「ありがとう。ところで、みんなは⁉︎ …… 騒がしい声もしないから、コテージにはいないみたいだけど」


「はい、皆さんは絶賛特訓中なのです」



 余興と称したあのプロレス三本勝負。対戦相手が最初から本気を出されてたら三人とも速攻負けていたのは誰の目から見ても明白だった。だから、みんなが特訓しているのだろう。とはいえ実際はミトさんの目論み通りに進んでいるのは間違いないとして、そしてスバル達もそれを分かった上で、強くなりたいと意思表示を示したはずとアギトは想像した。


同時にいつまでもこの場に寝ている場合じゃないと自らを鼓舞した。


「なるほど……では俺もすぐ参加しないといけないね」


「いえ、アギト様には別のプログラムがご用意されています」


「そ、そうなんだ」


「いきなりは動けないと思いますので、リハビリがまず最優先なのです」


「……ど、どうりで体全体が重くて、さっきから寝返りすら辛いと思っていたんだ」


「それでは湯治とうじに向かいましょう」


「湯治って、露天風呂では……ないの?」


「実はオールドウッズには温泉があるのです」


「へ〜なんでもあるね〜。それこそ精樹族の人間嫌いがなくなれば、いい観光地になりそうなのに」



「……そういう時代も来るかもしれません」


珍しく、プラタラスがしみじみと感想を述べた。


「え⁉︎」


「全てはマスカラス様とミト様による、新しい時代に向けての指針ししんだと思われます」


「なるほど……それがミトさんがオールドウッズへ来た理由なのか」


アギトは、今回のミトさんの目的の一旦を垣間見る事が出来た。

本命は、ミストラルでの先輩リンカー達の制圧だろう。単純な魔力での拘束は一時的には有効かもしれないが、長期的には意味がない。それは、9年前におけるジンカイさんの国外追放で問題が収束できなかった事実が物語っている。つまり、『上から押さえ付けるやり方』とは別の策が必要なのだ。

 


 目が覚めたばかりなのか、アギトはまだ頭がボーっとしている。そのせいかミトさんの考えている事、やろうとしている事の全貌がまだわからない。それでも、みんなは先に動き出している事、そして自分がしなくてはいけないことだけは明確に理解していた。


そんな思考中のアギトに対し、プラタナスはせわしく出発の準備を始めている。



「起きたばかりでなんですが、温泉に向かう準備をお願いできますか⁉︎」


「その前に、何か食べさせてくれないかな⁉︎ 無性にお腹が減っているんだ」


「申し訳ありません。鎮静ちんせい魔法の効果がまだ効いているのでお食事はもうしばらくお待ちください。温泉に着く頃には、食事が出来る体調になっていると思います」


「……そ、そうなんだ。なら我慢するよ」


そう言いながらアギトは目の具合を確認するために洗面所に向かう。を押し通しプラタナスに頼み込んで残してもらった傷が右の眉から目の上あたりに真新しい感じに鏡に写り出されている。いずれこの傷は馴染んで目立たなくなるかもしれない。それでも微かな傷を手で触れば、あの激闘を思い出すだろう。今後、どんな時でも最後の最後まで諦めない戦いを俺は出来るはずだ。


覚悟を再確認したアギトは、勢いよく顔を洗った。



「みなさんが戻って来た際にアギト様がいなくても心配なさらぬ様に、枝を折ってそれで文字を作り、メモをおいていきますね」


そう言いながらプラタナスは自らの枝を小さいマッチ棒くらいの大きさに切り分けた。それを何個も作りテーブルに置いている。


「自ら枝を折っても大丈夫なの⁉︎」


洗面所から聞いていたアギトはリビングのテーブルを見ていないので、状況がざっくりにしかわかない。なので素直な疑問を質問してみた。



「問題ありません。言ってみれば『爪切り』みたいなものです」


「……(よくわからん)」


プラタナスはテーブルの上で、その小さな棒を重ねて器用に文字を作っていった。その間、アギトは気にせず身支度に取り掛かっていた。




「では行きましょう。玄関を出たら私の枝の上に乗ってください。」


「ありがとう」


準備も整い出かけようとする際、先ほどプラタナスが言っていた『メモ』の件が気になり、アギトはふと振り返りテーブルの方へ視線を向けた。確かにテーブルの上には目立つように、小さな枝を重ねて出来た文字が並べてあった。


『サガサナイデ』


と読めた。


……これ、本当に意味が通じるのか⁉︎とは思ったが、腹が減っていたせいか深く考える気力がなくスルーした。

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