パワーバランス10
森林大会場に集まったみんなを前にして、ジンカイはある意味、最後通告のような言い方で『覚悟』を問いかける。
「決断にかける時間はスピーディーにしようか」
その言葉で退路を立たれたような感覚になり、スバルを含むみんなは更に焦り始める。
「ヤバイ話になりそうだなぁ〜。失敗は許されないぞ、これは」
「なんか、怖いね〜」
「……こんな時、アギトならなんていうかしら⁉︎」
「多分、アギトがここにいたら即決で『受けます』って言うさ」
「あ〜言いそう。アギトは昔から断らないもんな」
「まぁ〜それが、アギトらしさなんだけどね」
「モモちゃんもがんばりまちゅ」
「……そうだよな。やるしかないよな」
「んじゃさ、表向きはアギトのせいにしようぜ‼︎ それでいいじゃん。どうせ今ここにいないし、事後報告でいいじゃん」
ゲンキが陽気に言い出した。
ようやく、みんなの心は決まった。それは初めて各々が自身で責任を背負った事を覚悟した瞬間。そして表向きに『アギトを口実に使う』事で、個々の責任の重圧に今にも押しつぶされそうな不安な気持ちを和らげようとした。
「どうやら、覚悟は決まったようだね」
ミトさんが最後の念押しをした。
「助かるのじゃ」
マスカラスは本心から感謝の言葉を伝えた。
「そうなると私からの追加のお願いも聞いてもらおうかね」
まるでこの流れを読んでいたかの如く、ミトさんも追加の要望を告げる。というより、まさに『ここしかないタイミング』を待っていたようだった。
「な、なんじゃと⁉︎ ……まぁ〜やむを得まい」
「アギトを含むみんなを強くしてもらいたい。偵察はその後さ。それでこの件は貸し借り無しでどうだい⁉︎」
例えばカードゲームにおいて強いカードを最初からどんどん出せば勝てるというものではない。いつ、どのカードを出すか?そういう駆け引きが展開を優位、もしくは同等に持って行く事が出来る。そういう点でいえば、ミトさんがアギト達の特訓話というカードを出すにはまさにここしかない最高のタイミングだった。
「確かに精虫族に相対するなら、それなりの魔法強化は必要じゃ。……どうだろうかジンカイよ⁉︎」
「そうですね。幸い彼達は少しコツをきっかけを教えるだけで、今よりも強くなれるはずです」
「ならば、これで交渉成立じゃな」
その後はミトさんとマスカラスの間でとんとん拍子に交渉が進んでいく。ところが、その事にスバルが違和感を持った。
「あれ⁉︎……なんかおかしくないか⁉︎……最初は、護衛って話だったよな⁉︎ 僕たちにとっては簡単な『お使いイベント』だったよな⁉︎……いつの間にか『特訓』にすり替わっているんだけど⁉︎」
「こんな事だろうと思ったわよ。そもそもミトさんが私たちを『護衛』目的で呼ぶはすがないと思ったのよ」
ケイはミトさんの思惑を感じ取ったのか、諦めにも似た表情だった。
「……んじゃ、仮に今の精虫族エリアへの潜入話を断ったら、どうなってたの⁉︎」
スバルがミトさんに恐る恐るミトさんに聞いてみた。
「何も変わらないさ。あんた達の魔法強化の為の特訓は最初から必要事項なんだよ。その為に、あんたたちを連れて来たんじゃないか」
「マジかよ‼︎ 結局どう転んでも、俺たちは特訓する羽目だったのかよ‼︎」
「もう、あきらめましょう。ミトさんがそう言ったらもう無理だわ」
「……そ、そうかもしれないけどよ」
「私たちはもう『自分の意思』で覚悟を決めたのよ。そして私は精樹族に治癒&回復魔法を教えてもらう‼︎ ……今まで以上にみんなの役に立ちたいの‼︎」
みんながミトさんの思惑通りに進んだ事で多少のショックを抱いている中、ケイだけは今までくすぶっていたモヤモヤを吹き飛ばすように宣言をした。これまでのパーティーでの役割を振り返り、もっと仲間として役に立つことはないのか⁉︎ それをずっと考えていた。昨日のプロレスで三人三様で自分のスタイルに変化を見せた仲間達の行動にケイは感化された。その極め付けはアギトの重症だった。
全てを加味した上でケイの中で明確なビジョンが見えた。それに加えてミトさんが考えていた私たちをここに来た本当の理由。それに報いる為にケイが出した答えが『回復サポート』だった。




