パワーバランス09
精樹王マスカラス直々の要望に対し、今回はアギト抜きでその発言において自身が『責任』を負う事態に追い込まれてしまった。
「どうするよ⁉︎」
「つか、誰がこれ決めるんだよ⁉︎」
「こんな重大な事、決められないよ」
「そもそも精虫族の連中に見つかったら、俺たち勝てるのかよ⁉︎」
「どうするんでちゅか⁉︎」
「私はどっちでもいいわよ」
「あ〜そういう言い方が一番ズルいんだよ‼︎」
「……あ、あ、あの〜」
「なんだよ、トモミ‼︎ …… ま、まさかお前が決めるとかじゃないだろうな〜⁉︎ 昨日、アギトの最後の技の秘密を解き明かしたからって、調子乗ってリーダーの座を狙っているんじゃないんだろうな〜⁉︎」
勿論トモミにそんな気は毛頭なく、誰もが精樹王マスカラスの申し出を決断出来ないで悩み揉めている最中、みんなに提案し始める。
「そ、そうじゃなくてさ……誰かのせいに押し付けるんじゃなくて、みんな自身で決めないといけないと思うんだよ。こんなんじゃ、いつまでたってもアギトに追いつけないと思うのさ」
このトモミの一言が、みんなの心に刺さった。アギトはここまでみんなをまとめ上げて来たのは単に年齢が一番上だからという安易な理由だった。だが、転生者において年功序列そのものが前世の悪しき流れだと魔なび舎でのリンカー先輩事件で嫌という程思い知らされた。だからこそ、その流れを断つ為に年齢に関係なく一致団結を誓った仲なのだ。そもそもメンバー内における会話においてはタメ口でも問題ないと決めていた。それでも最終責任だけは、無意識にアギトに任せていた。この点においては、それこそ先輩リンカー連中と変わらなかった。
「……確かに、責任のなすりつけ合いをしている場合じゃないよな」
「そうかもしれないけど、出来もしない事を軽々しく受けるのはどうかと思うよ⁉︎」
「そもそも状況を把握って要は『偵察』してこいって事でしょ⁉︎ 実際には何すればいいのさ⁉︎」
スバルはマスカラスに対しても敬語は一切使わず、ガンガン質問する。
「何故、精虫族が共有エリアまで独占しようとし始めたのか⁉︎ 奴らは一体何を企んでいるのか⁉︎ いくつかの想像は出来るが確証がないのじゃ」
契約を結んでいる以上、ほぼ間違いなく怪しくても想像では動けない。確かな物証が出てないと動けないのはどこの世界も同じなようだった。
「具体的には、何もわからないのね」
「手探り感は否めないし、危険度も高そうだよなぁ〜」
「ちなみにさ、もしも精虫族に見つかって捕まったら助けてくれるの⁉︎」
みんなの視点がマスカラスに集中した。
「……」
「なんで、そこは無言なんだよ‼︎」
「……我々としては、あくまで無関係を装うだろう」
頼んでおいて失敗に対する非情な扱いはどうなんだ⁉︎ と怒りをぶつけたくもなったが、逆に言えばこの任務がそれほど重要な話だというのが理解出来る。昨日のプロレスとは次元の違う戦いになるはすだ。これは『余興』ではない本格的な国家間の交渉だという事がここにきて、急に実感した。
「んじゃ、もう一つだけ質問。仮に僕たちが精虫族の悪巧みの証拠を見つけたら、どうするの⁉︎」
「ガハハハ〜そうなったら……」
マスカラスは、この言葉を待っていたかのように大はしゃぎだ。
「精虫族のトップと、このWWWベルトをかけて勝負じゃ‼︎」
「もうプロレスはいいわ‼︎ つか誰もがそのベルトに憧れを持っていると思うなよ‼︎ 誰もがプロレスで勝負しようと思うなよ‼︎ 気さくに戦ってくれるのはミトさんぐらいだわ‼︎」
「私は、プロレスはやらないよ。……もう現役(精樹王)を退いたからね。いつまでも私の時代じゃないんだよ」
マスカラスとスバルの応酬に、ミトさんの一言が歯止めとなった。マスカラスはノリとはいえ、少し冗談がすぎた返事に対し反省をした。
「……まぁ〜背に腹はかえられん。WWWベルト防衛戦は後回しじゃ。とにかく精虫族の不審な証拠を見つけてくれたら精樹族を総動員して全力で支援するし、その体制は準備していておく。そのあたりはジンカイが上手くやってくれるじゃろ」
この問題が解決すれば、また好きなだけプロレスが出来るだろう。平和においてエンターテイメントは必須な文化なのだ。実際ここまで精樹族を虜にしたプロレスが廃れるはずがない。しかし、その前に今やらなければいけない事がある。このタイミングを逃せば災厄が起こりそうな、そんな予感をマスカラスもジンカイも感じ取っていた。だからミトさんの連れてきた『精鋭者』たちに託したのだ。




