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最初に言っておく‼︎ 転生者はキミだけではない‼︎  作者: クリクロ
第二章 『動き出した思惑編』
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歓迎という名の戦い08

 アギトがトネリコの技から間一髪逃げ切れたことで両者の間に距離が出来た。ここでトネリコはさらなる攻撃を繰り出すのではなく、えてリングの中央に移動し枝の先を手の指に見立て軽くクイクイと手前に動かしアギトの攻撃を誘発してきた。


「マスク・ド・トネリコ選手のこの動作……これは明らかにアギト選手に対しての挑発行為だぁ〜‼︎」


「今度は、アギトの攻撃を受け切るっていう意思表示だね。だから、かかってこいというポーズをとった」


「これぞまさしく、プロレスの真髄だぁ〜」


「そうなの⁉︎ プロレスって相手の攻撃を受けないといけないの⁉︎」


「一撃の強さだけでなく、ラッキーパンチの有無でもなく、純粋にどちらが強いのか⁉︎ 相手の攻撃を受けきる意地が張れるか⁉︎ そういう武骨ぶこつな戦い方もあるのさ」


「よく、わからん」



アギトはこの挑発に乗る気だった。いや、それ以前に最初から持てる全てを出し切るつもりでいた。



罠魔法ボトムトラップ‼︎」


アギト唯一の攻撃魔法。それは遠距離において有効な技であって、対接近戦においては不利な魔法。しかし状況が変わった。ジンカイさんが『火力を調節する』と言った事で、接近戦において使用出来るとアギトは確信した。


「アギト選手の攻撃系魔法が発動しました〜‼︎ しかし罠魔法ということは、そもそも設置魔法ですよね。……ということは、直接相手にダメージは入らないのでは⁉︎」



「本来、アギトの罠魔法の威力はこの6m四方のリング内では収まらない。実際は直径12mくらいまで爆破エリアがある。つまり普通に罠魔法をリング内のどこへ置いても相手はおろか当人を含め周囲の観客まで被害が出る恐れがある。当然、それでは試合にならない。ジンカイが最初に『火力調整する』とに言ったのは、この事だったのさ」



「なるほどぉ〜さすがはマスク・ド・ジンカイ。ナイス判断です」


「何より、アギトには接近魔法がない事、遠距離魔法の火力調節も出来ないとジンカイは瞬時に見切った。実際アギトは、罠魔法における火力の強弱のコントロールが出来ない」



スバルは今のミトさんの説明に疑問を持った。


「何度も火力の事を言ってるけど、魔法の火力に強弱なんて必要なの⁉︎ 強ければそれでいいんじゃん‼︎ 今回はたまたまそういうルールだけど、実戦においてルールー無用な戦いにおいて、弱魔法なんて意味があるの⁉︎」


「……意味はある」


「嘘でしょ⁉︎ 弱い魔法なんて効かないじゃん‼︎」


「まぁ〜この話は、いずれ話すよ。今はアギトの試合をしっかりみな」



「は、話を試合に戻します。確認ですが、リング上に罠魔法を設置した事で隠せていないのは明白です。そして相手がその場所に向かわなければ爆発しないんですから、これは意味がないのではないでしょうか⁉︎ 当然、マスク・ド・トネリコは動かないぞぉ〜」



しかし次の瞬間、罠魔法が爆発を起こした。アギトから向かって奥のコーナーで爆破が起きたので中央にいたトネリコは背後からの爆破の爆風をモロに食らう形になった。不意をつかれたダメージで、この試合トネリコは初めて前のめりに崩れる。両足をした形状の枝がまるで膝が折れるような姿勢になった。


「なんだ〜⁉︎ なんで、爆発したんだぁ〜⁉︎ 誰も、罠には触っていないぞぉ〜‼︎ これは一体どういうことなんですか〜マスク・ド・ミトさん︎⁉︎ 」


「罠の上に罠をかぶせたね」


「なんと‼︎ それは2重の罠ということですか⁉︎」


「そういうことだね」


「どういうこと⁉︎」


スバルが迷わず聞き返す。


「そもそもアギトの罠魔法はどういう原理で爆発するか、わかるかい⁉︎」


「え⁉︎……う〜んと、罠なんだから触ったら爆発するんでしょ」


「その通りさ。つまりアギトの罠魔法は、時限タイマー式でもなく、遠隔操作リモコン式でもなく、接触感知センサー式なのさ」


「起爆の種類って、そう考えると色々あるのね」


ケイが素直に感心した。


「一度発動したセンサー式の罠魔法は独立扱いされるから、それ以降はアギトの魔力を必要としない。コスト的にも実用的な魔法だね。それゆえにセンサー特有の条件をつけないといけない」


「条件⁉︎ 単純に触れたら爆発するんじゃないの⁉︎」


「それだと地面に置いた瞬間……つまり最初に設置した時点で爆発条件が整ってしまう。それを回避するために1回目の接触はカウントされないようになっている」


「た、確かに罠魔法を設置した瞬間に爆破したら、それは罠じゃないもんな。ただの遠距離爆発魔法だもんね」


「そしてもう一つ、条件がある」


「ま、まだあるの⁉︎」


「風などの振動や空気中の埃などのごく微量な接触には、感知しないという条件が付け加えられている」


「な、なるほど。センサーの感度が強すぎると、やっぱりすぐ暴発しちゃうもんね」


「この条件の元で、実戦では相手が罠に触れる事で爆発するのを可能にしていたのさ」


「結構、繊細な魔法だなぁ〜。なんとなくアギトの性格に合っている魔法だよ」




「……では相手がその罠に触れない場合は、どうやって爆破させればいいと思う⁉︎」


ミトさんは、誰もが分かるような質問を投げかけた。



「あ、そうか‼︎ だから罠に罠をかぶせたのか‼︎ 2度目の接触を敵ではなく、罠にする事で起爆させたんだね」


「正解さ。そうする事である程度、遠隔操作リモコン式のような起爆のコントロールが出来る」



ミトさんの説明はジンカイも聞いていた。そしてアギトのこの応用を素直に感心した。この応用は決して偶然ではない。魔法構築を理解し、利点と欠点を熟知し、さらに過去の反省を踏まえ、今こうして改良を加え実践している。ジンカイはふと昔を思い出していた。



 まだミストラルに自身がいた当時、リンカーの誰もが魔法についてそれほど本気で向き合っていなかった。ただ契約時に与えられた魔法に喜び、それを使える事で満足していた。そして魔法を便利か便利ではないという基準の天秤に掛け、生活に必要ないと思える魔法は当然使用しなくなった。平和な日常において攻撃魔法は価値がない風潮ふうちょうにあった。そういう流れがリンカーの間で脈々と引き継がれていたのは事実だった。そうした不安にジンカイが警鐘けいしょうを鳴らしても誰も耳を貸さなかった。



しかしミストラルを離れた後、この平和を危惧する人物が現れたのだろう。現在いまではなく未来のために魔法を『本気』で活用しようとした人物が現れたのだろう。アギト君はおそらくその人の背中を見て、その人に追いつきたいと思ったのかもしれない。私にとってホウセツがいたように、アギト君にも尊敬する人に追いつきたいという感情が芽生えた。だから契約とはいえ与えられた魔法にただ漫然と喜ぶのではなく、魔法の真髄に興味を持ち、そして魔法のさらなる可能性まで探求している……ミトさんは、本当にいい『弟子たち』を見つけましたね。




アギトのこの勇姿は、昔のリンカー達では到底たどり着くことが出来ない領域へ進んでいる。そしてジンカイとも似て非なる方向へ進んでいる。与えられた魔法に疑いを持ち、あらがい、そして現状を越えていくその姿勢は単純に見ている者に鮮烈せんれつな印象を与えた。

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