歓迎という名の戦い03
「余興は3戦じゃ。それで2勝した方が勝ちじゃ。そう決めたのじゃ‼︎ ワシがルールブックじゃ‼︎」
精樹王マスカラスが声高らかに宣言した。観客は、割れんばかりの大盛り上がりだ。あまりの歓声の大きさに会話が聞こえずらい。なのでいつもより大きめな声でスバルが質問をした。
「勝手にあんなこと言ってるけど、実際、誰が行くの⁉︎ 誰が戦うの⁉︎」
そう言いながらキョロキョロ辺りを見回した。
「どうでちゅか、にあいまちゅか⁉︎」
「って、なんでモモちゃんまで覆面マスクをかぶっているのぉ〜⁉︎ なんで、すっかりオールドウッズに馴染んでいるのぉ〜‼︎ 似合うとか似合わないの問題じゃないよ。モモちゃんはプロレスやっちゃダメだよ‼︎ 危ないよ‼︎」
「へいきでしゅ」
「なんでそんな強気なの⁉︎ その根拠はどこからくるの⁉︎ つか、誰だよモモちゃんに覆面マスクをかぶせたのは⁉︎」
「いいじゃないか、行かせておやりよ」
ミトさんは、相変わらず何を考えているのかわからない。
「ミトさん、マジで言ってんの⁉︎ 相手は3mくらいの馬鹿デカイ木の連中だよ‼︎ 体格差がエグいよ‼︎」
「モモなら、なんとかするだろうさ」
「本当に大丈夫なんかなぁ〜」
スバルだけでなくみんなの不安をよそに、モモちゃんはヤル気満々だ。ただリングのマット面は地面から1mくらい高い場所にあるので、モモちゃん一人ではよじ登ることが出来ず、トモミがモモちゃんを抱えてリングに上げてあげた。
「さぁ〜両者リングインをしたら、関係ない他の者は離れて‼︎」
いきなりリング内から嗾けてくるヤツがいる。どうやら精樹王マスカラスではない。
「あんた誰だよ⁉︎ 何者だよ⁉︎」
「私は審判のマスク・ド・ジンカイだ」
「なんでレフリーも覆面マスクかぶっているんだよ⁉︎ つか、あんた人間なのに何やってんのぉ⁉︎」
「なにぃ〜〜……なぜ、ばれた⁉︎」
「バレるよ‼︎ 丸わかりだよ‼︎ なんで覆面マスクしてればバレないだろうって発想なんだよ⁉︎ 他の連中は、全員見た目が木だろうが‼︎ そして、あんただけだよ‼︎ 俺たちを除いて人間は‼︎」
「はっ‼︎ 盲点だった。オールドウッズでの長い生活でそこまで気が回らなかった」
「盲点じゃないよ‼︎ピンポイントで人間だよ‼︎ つか、こいつ大丈夫か⁉︎」
「……というか、私たち以外に人間がいるけど、どういうことなの⁉︎ オールドウッズには人間がいないんじゃないの⁉︎ 人間が嫌いじゃないの⁉︎」
ケイの疑問はみんなの疑問でもあった。その答えを聞くべく、一斉にミトさんの方へ振り向いた。ミトさんは、まだ覆面マスクをかぶっている。
「実はね……彼こそが私が9年前にミストラルから極秘にオールドウッズに連れて来たリンカーなのさ」
「え⁉︎」
「実質的なリンカーのトップ。当時、周りの連中から天才と持て囃され、誰からも一目を置かれる存在だった人物。それがジンカイさ」
「ミトさん、それは違います。我が名はマスク・ド・ジンカイです‼︎」
「めんどくせ〜よ‼︎ つか、ミトさんと同じボケをブッ込んでくるんじゃないよ‼︎ 普通にジンカイでいいだろうが‼︎」
「そうじゃないのだよ。マスク・ド・ジンカイとは世を忍ぶ仮の姿なのさ」
「ただ覆面マスクかぶっているだけだけどな‼︎」
「ジンカイってもしかして昔……リンカーとネイトの衝突でミストラルが混乱に陥ったあの事件の関係者なの⁉︎」
ケイは魔なび舎の講義で教わった事を思い出したようだ。
「あの事件は、どうしても誰かが責任を取らないといけない状況だったのさ。本来、個人レベルの問題ではないのだが、仕方なくみんなの責任をジンカイは一人で背負い込んだ。だから私の独断でこのオールドウッズに密かにジンカイを連れてきた。表向きにはミストラル国外追放という名目さ。それで事件の終息を目論んだ」
「んじゃ、ミトさんが昨日言っていた『心当たり』っていうのはこのジンカイさんのことですか⁉︎ コテージの件といい、料理の件といい、全てはこのジンカイさんの配慮なんですね⁉︎」
アギトが問い詰めた。
「それしか考えられないだろうねぇ〜」
覆面マスク越しなので表情がわからないが、ミトさんは楽しんでいるように思えた。それはジンカイさんとの久しぶりの対面のせいなのか⁉︎ それとも、たった一人でオールドウッズの孤立生活を腐ることなく過ごし、ミストラルの行く末を願っていた男に対しての敬意なのか⁉︎
同時に、ジンカイさんの用意周到な数々のもてなしからすると、ミトさんが近い将来、人間を連れていずれオールドウッズに来る事を予期していたことになる。
ミトさんの揺るがない態度に対し、ジンカイさんもまた凛とした佇まいで応えていた。(両者とも覆面マスクが余計)
「さすがにミトさんが目を掛けたリンカー達だね。よくぞ見破ったよ。全てはマスカラス様の命を受け新しく生まれ変わったマスク・ド・ジンカイとして、来たるべき時の為に人間を接待する環境を整えてきたのさ」
「いや、単に一人で隔離されて暇だったんだろ⁉︎ 寂しかったんだろ⁉︎」
「そ、そ、そんな事はない。だ、断じてそんな理由ではない」
ジンカイの動揺が、覆面マスクかぶっていてもバレバレだった。ただ人間嫌いな精樹族を9年という短期間でここまで改革させたのは、只者ではないと言わざるを得ない。伊達に当時、天才と呼ばれていた人物の事だけはある。その人柄が人望が熱意が精樹族の心を掴み、ここまで人間の生活スタイルを取り入れた。またエンターテイメントでもあるプロレスを浸透し精樹族が虜にしてしまうほどの指導力や求心力は、持って生まれたリーダーとしての才覚であり、まさしく上に立つべき器……なのかもしれない。




