精樹大国オールドウッズ04
1〜100話を修正したので、考え深いものがあります。
なので、今回の101話は少し緊張しました。
一方、男連中といえばスタンプ先生やアギトの柔めの忠告も無視し、脱衣所に入った時点から大はしゃぎ状態だった。ここに来るまで、みんなは相当に滅入っていたはずなのに、そんなことを吹き飛ばすくらいはしゃいでる。そこら中を走り回ったり、お湯を掛け合ったり、体を洗いながらふざけてたり、浴槽の中をバシャバシャと泳いだり、とにかく落ち着きがなかった。本来、このような行為はマナーに反しよろしくないのだが、今回だけは注意するのは野暮だとおもった。
アギトは湯に浸かりながらみんながふざけている光景を見て、少しホッとした。全てが忘れられるような気分だった。ふと見上げれば、すっかり陽も暮れ夜になっていた。暗闇の中にかがり火で照らされた竹林が儚げに揺れている。なんとも形容しがたい風情ある景色と檜造りで囲まれた空間の独特な香りも相まって緊張は次第にとけ、のんびりとした気分になった。癒されるとはまさにこの事で、しみじみと肩まで湯を浸かり夜の風情を背景に露店風呂の良さを噛みしめていた。
「いつまでアギトは黄昏ているんだよ‼︎」
「アギトはいつも考えすぎなんだよ‼︎ もう少し、適当にやればいいじゃん」
「お前は適当すぎるけどな、アハハ……」
と言いながら、スバルがゲンキにお湯をぶっかけた。
「ぐはっ⁉︎ やったなぁ〜」
「あんまり、はしゃぐなよ」
アギトはそっけない返事で本音を濁した。「わかっているけど、そういう性分なんだよ」と反論しそうなところを敢えて言葉に出さなかった。こういう言われ方は前世の頃から経験済みで、事ある毎に周囲から言われてきたので、声に出して反論するのが億劫になっていたのだ。
露店風呂から戻ると、ミトさんたちはもうリビングに戻ってきていた。そして全員が揃ったタイミングを見計らいプラタナスたちが器用に枝を動かし食事を運んできた。腕を形成していた部分にあたる枝を伸ばしながら8人全員の食事の皿をいっぺんに持っている。
「その枝の使い方はエグいな‼︎ 普通なら何度も往復する仕事量を1回でこなしてるよ‼︎」
「恐縮です。では、ごゆっくりどうぞ」
目の前のテーブルには大皿に様々な形で料理が並べられた。それぞれの皿に色鮮やかな具材と食欲を唆る香りが、空腹な状態を一層際立たせた。しかし同時に、違和感も覚えた。これらの料理はミストラルで見た事がある料理だ。前世において、国が違えば地方が違えば、食文化も違うというのが一般的だ。たとえ陸続きだとしてもその場所場所によって根付いた郷土料理的ような特色は出るはずなのだ。
ところが今、出されている料理をあえて表現するならば和洋折衷か多国籍か……つまり、このなんでもありな料理スタイルは、まさしくミストラルの料理なのだ。
実際に料理を食してみても普段食べている料理と遜色がない。若干味付けは違うが、違和感なく食べられる。というより、かなり美味しい。これはミストラルの料理を熟知していていないと再現出来ないレベルだと感心した。
食事中、みんなは流石に空気を読んで昼間の事件話は避け、料理の美味しさや露天風呂の話などをしていた。その仕草や表情は決して作り笑顔ではなく、普段通りのみんなの笑顔だった。
食事後も雑談が続いたが、しばらくするとゲンキやスバルたちは早々に寝室の方へ移動して行ってしまった。ケイも「モモちゃんが寝付くまで側にいてあげる」とスバルたちとは違う寝室に付きそって行ったが、戻って来ないところを見るとどうやらモモちゃんと一緒に寝てしまったのだろう。
……とにかく今日は色々ありすぎた。アギトは寝る前にどうしてもミトさんに聞きたい事があったので寝室には向かわず、暖炉の前でソファに座って寛いでいるミトさんに近づいて話かけた。
「ミトさん、少しだけいいですか⁉︎」
「あぁ〜いいよ」
暖炉の周りにはスタンプ先生とトモミ、部屋続きのリビングには片付けをしているプラタナス(正確には伸びた枝だけ)がいたが、別に聞かれて困る事ではなかったので、アギトはミトさんの対面に座り、質問をぶつけてみた。
「ずばり聞きます。ミトさん……この森には精霊がいますよね⁉︎ そして、このオールドウッズにはミストラルの文化や生活様式が明らかに伝わっている。つまり、人間の交流はなくても精霊同士の交流があるんじゃないですか⁉︎」
これが、アギトが辿り着いた結論だった。
ミトさんは食後のお茶を一口飲み、そして静かにカップをソーサーにおく。
「よろしければ、もう1杯いかがですか⁉︎」
プラタナスは、ミトさんが話に入る前のここしかないタイミングで聞いてきた。
「いや、結構さ」
「かしこまりました」
そう言うと、枝を伸ばしお茶の入ったポットをサイドテーブルに戻した。ミトさんはひと呼吸をし、静かに語り始めた。
「まぁ〜みんなも、うすうすわかっていたとは思うけどね。……確かに精霊族はこの精樹大国オールドウッズの誕生に関わっている」
「やっぱり‼︎」
トモミが身を乗り出して、話に食いついてきた。
暖炉の火はまだ勢いよく燃えていて、たまにバチッとはじける音がやけに耳に残った。




