精樹大国オールドウッズ03
なんとか100話までこれましたぁ〜
「おぉ〜コテージの中には暖炉もあるよ。優しい火の明るさが部屋全体に広がって良い雰囲気だし、それでいて部屋全体が暖かいね〜」
ゲンキとスバルとオサムがすぐに暖炉の周りを囲んだ。そして、疑問に思っていることを窓の外側にいるプラタナスにぶつけてみた。
「この暖炉はガンガン燃えているけど、この燃料って木だよね⁉︎ これってあんた達の身内を燃やしているようなもんじゃないの⁉︎」
「お気になさらずに。それは剪定して切った残りの方の木です」
「せんていってなんでちゅか⁉︎」
モモちゃんも気になったようで、暖炉に近づいてきた。それを察したオサムは場所をモモちゃんに譲ってあげながら説明をした。
「え、えぇと……簡単に言えば、身だしなみをするってことかな」
「そのとおりでございます。なので髭を剃ったあとに出た髭カスだと思ってくだされば結構です」
「おい、その言い方‼︎ 例え方がエグいわ‼︎ 暖炉で燃えてるのがヒゲって、想像するとめちゃ嫌だぞ‼︎」
「枝はすぐ伸びるものなのでお気になさらず。ちょうどボウボウだったので、良い機会でした」
「枝を無精髭みたくいうな‼︎」
「暖炉の火は私どもが管理しておりますので、是非お風呂へどうぞ。ゆっくり疲れをとって来てくださいませ」
「ヒゲのくだりは釈然としないけど、まぁ〜風呂は期待しちゃうよね」
「たのしみでしゅ」
「うんうん」
プラタナスに言われたとおり、食事の準備が出来るまでの間みんなは露店風呂に入ることにした。
ミトさんは、ケイとモモちゃんを連れて一つ隣のコテージの露店風呂へ向かって行った。魔なび舎ではいつもケイとモモちゃんの二人だったので、風呂場でこの3人の面子というのは今までなかった。ケイはモモちゃんの背中を洗いながら、今日の事件の後からずっと考えていたことをミトさんに聞いてみた。
「あの〜ミトさん。私は強くなっているんでしょうか⁉︎」
「ん、なんでそう思うんだい⁉︎」
「今日の戦いでわかりました。結局、一緒に講義を受け魔法の練習をしても、才能のある者には叶わない。……そう〜モモちゃんのような天才には勝てない……」
「けいおねぇちゃん⁉︎」
一足先に、湯船に入っていたミトさんは露店風呂ならではの雄大な景色を眺めながら淡々と話を始める。
「私は天才という者はスタートラインが少しだけ前に行っているものだと考える。ほんの少しのハンデみたいなものさ。そして後ろからそれを見ている者は、そのたった少しの差を『天才』という言葉を言い訳にして諦めてしまう」
「そうでしょうか⁉︎ もっと届かない存在だと思いますけど」
「そう思うのは、結局のところモモの表面的、断片的だけを見ての判断だよね」
「でも、私が一番モモちゃんの側にいますよ。一番モモちゃんの事を知っています」
ケイはそう言いながらモモちゃんの体を洗い終え、二人で一緒に湯船にゆっくり入った。モモちゃんにはこの湯の熱さは大丈夫だろうかと心配したが、モモちゃんは笑顔で肩まで浸かっていた。
「いいかい。そもそも『天才』と思っているのは他人の印象であって、当人はそんなこと思っていないのが殆どなんだよ」
「え⁉︎」
「他人より才能があるというならば、絶えず努力をしてきた。それが周囲より多いだけなのさ。私に言わせれば『天才』とは天から与えられた才能ではなく、自身を諦めない才能だと思っているよ。……つまり敗戦の一つや二つ程度でへこんでいる暇がもったいないって事さ」
「で、でも、実際モモちゃんの上達スピードは群を抜いています。みんなと同じ講義を受けて、魔法の練習をしているのに、私は同じスピードで成長出来ていません。これは才能の差じゃないんですか⁉︎」
「人間には成長期ってやつがあるらしいね。ある時期に肉体が急速に成長するタイミングの事だ。おそらく魔法にもそれがある。魔法が当人との感覚とが深くマッチした時、通常以上の成長を遂げる時がある。たまたまモモは今がそれに該当しているのかもしれない。しかし、ケイは一つ勘違いしているよ。魔なび舎の講義の後、モモがトウタの家に毎日通っているのを知っているかい⁉︎」
「ええ〜ラルの様子を見に行っているんですよね。いつもミルクをあげていると言ってます」
「それもあるが、メインは魔法を教わっているんだよ。トウタやカミュールに」
「え⁉︎」
「モモはああ見えて負けず嫌いなのさ。ラストリンカーの中で一番年下だからって理由で弱いというレッテルを貼られるのが嫌なんだろうね。だから努力を苦しいと思わず、好奇心や楽しさの中に自然と努力を組み込んできたんだよ」
……知らなかった。実のところモモちゃんの新魔法はラルの世話をしていた際に完成した偶然の産物だと聞かされていた。ところがモモちゃんは新魔法習得に見合う努力をきちんとしていたのだ。真実を知らずに『天才』という言葉で片付けるにはあまりにも失礼だった事にケイは今更ながら気づいた。
ふと、ケイは話をしているミトさんから目線をモモちゃんに向けた。お湯が熱かったのかモモちゃんはすでに湯船から出ていて、垣根越しにかがり火に照らされキラキラ光る竹林の風情ある光景をじっと見ていた。
(補足:垣根は露店風呂の外へ出られないための囲いです。男女風呂を仕切る様な『間仕切り』ではありません)
「モモの凄いところはね、興味を持ったモノにはひたすら貪欲なのさ」
ミトさんの言いたいことが、なんとなくわかった。要は、私が私自身から目を背けていただけなのだと。言われた事だけをこなし、みんなと同じ事をしているだけで満足していた。それに対しモモちゃんは現状に満足せず、誰よりもみんなに早く追いつくために一心不乱にやってきていた。その努力を天才とか才能という言葉で私は誤魔化していた。……まさにミトさんに言われたように『井の中の蛙』だった気がした」
「モモはトウタにいつも言ってたよ。『みんなの足手まといになりたくないって、みんなに迷惑をかけたくないって』
「モモちゃんが、そんな……ことを……」
「努力に遅すぎるって事はない。深く悩む前より、先ずは行動する意識を持ちな」
「……ミトさん、ありがとうございます」
「ちなみにあんた達の前世には、もっといい言葉があるじゃないか。『好きこそ物の上手なれ』……このミストラルを、魔法を、好きになってくれる事が私の願いだよ」
感情が沸き立ったのか、それとも逆上せたのか……どちらにせよ長く湯に入りすぎたようだ。そろそろモモちゃんを連れて風呂から出ようと思い、ケイは再度モモちゃんの方へ振り向いた。……なんとモモちゃんは近くに見える竹林のとりわけ綺麗に光っている部分をもっと間近で見ようと、露店風呂の端っこの垣根を真っ裸でよじ登っているまさに最中だった。
「モモ、あんた何やってんの‼︎ 危ないって‼︎ せっかくモモのいい話を聞かせてもらって感心してたのに、言ってる側から迷惑をかかるような行為をしちゃダメ〜〜」
ケイは慌てて湯から飛び出て、モモちゃんの方へ駆け出した。
「だいじょうぶでしゅ」
「大丈夫じゃないわよ‼︎ そのまま動かないで‼︎」
そう言いながらも、ケイはモモちゃんの天真爛漫で好奇心の塊みたいな性格に、年下ながら憧れみたいなものを感じていた。同時に、これからはもっとモモの見本となるようなお姉さん的立場として自分を磨かないといけないと改めて強く思った。
やっとコンセプト画像の露店風呂のエピソードを公開出来ました。当初、風呂は入ってすぐ出る程度の内容でした。それを画像を描く事で、1話分、追加出来たというわけです。コンセプト画像も書いて見るもんですねぇ〜(≧ω≦)b




