モモちゃん01
「わたちのままえはモモちゃんです。6さいだお」
……こんな可愛い子が、なんで、、、、そう思いながらも表情は変えず、私はモモちゃんを驚かせないように近づいて両膝をつき目線の高さを合わせた。そしてゆっくりとはっきりとした口調を意識して返事をした。
「そう〜モモちゃんって、いうのね。かわいいなまえね」
「パパもそういうのよ。でもパパがいないの。どこにもパパがいないの⁉︎」
……胸がしめつけられそうになる。世の中は時に無情だ。でも、小さい子だからこそ、現実から目を背けてはいけない。逃げてはいけない。『いい子にしてればきっとパパに会えますよ』なんて嘘を一度でもついてしまえば、もうこの子は私を信用しなくなる。物事の全てを『嘘』というフィルターを通して覗いてしまう。それではこの子の未来のためにはならない。この子に限らず、転生してくる人はみんなそうだ。死にたくて死んだんじゃない。そして自ら生きたい願望があったから、この世界と繋がったんだ。だからこの子には全ては理解出来ないかもしれないけど、真実をちゃんと『私が』伝えなければならない。
「……モモちゃん。あのね。ここはいままでの、モモちゃんのいたばしょではないの。だからパパさんとも、はなればなれになっちゃったの」
「え〜パパはどこ⁉︎ パパはどこ〜⁉︎」
「ごめんね。おねえさんはパパさんがどこにいるかわからないの。モモちゃんだけがここにきたの」
「そっか。パパとはなれちゃったのかぁ。ずっとまえにママともはなれちゃったの。……もう、モモちゃんはひとりなの⁉︎」
……そうなのね。この子はもうすでに大きな悲しみを背負っていたのね。だから、パパを必死に探すわけでもなく、駄々をこねるでもなく、泣きじゃくるでもなく、淡々としている。……この子は強いわ。だからこそ、私たちが支えてあげなければならない。
「パパさんがどこにいるかわからないで、ごめんね、モモちゃん。……かわりに、おねーさんとおにーさんと、おともだちになってくださいな。わたしのなまえはカミュールです。となりのおにーちゃんはトウタさんです。よろしくね」
「わたちのままえはモモちゃんです。よろちくおねがいちます」
「モモちゃん。いまからカミュールおねーさんのいうおはなしをよくきいてね。これから、モモちゃんみたいなひとりになってしまったひとが、おおぜいいるところへいきます。みんながモモちゃんをまってくれているので、いっしょにきてくれないかなぁ〜」
「わかりまちた。モモちゃんはママがいなくなったときにパパといっしょにきめたの。もうなかないって。だから、いまもなかないの。エライでしょ〜エヘヘ」
……私の方が、泣きそうだ。というか、もう涙がこぼれている。私は反射的にももちゃんを抱きしめた。いきなりの事で少しびっくりした様子だったが、モモちゃんは私の涙をみるとなぜが微笑み、私の頭をなでなでしてくれた。
「カミュールおねーちゃん。ないてはいけませんよ」
「……そ、そうだよね……おねーさんは、な、なんで、ないているんだろうね。ごめんね〜モモちゃん」
私は涙が止まらず、しばらくこの状態のまま動けなかった。そこへ師匠が何も言わず、ただ私の肩に優しく手を添えてくれた。……肩に触れているその手のわずかな温もりが私には嬉しかった。
……だいぶ落ち着いてきた。意を決し、涙を拭いて立ち上がった。……もう、モモちゃんの前で泣くのはやめよう。それは、モモちゃんに対して失礼にあたるわ。
「師匠〜」
「わかっているよ。もう撤収作業は終わったよ。さぁ戻ろう‼︎」
「はい‼︎……さぁ〜モモちゃん、いくわよ‼︎」
モモちゃんは左手で私の手を強く握ってくれた。そして私の目を見て右手を元気に上げて大きな掛け声を出してくれた。
「あぃ、ちゅっぱつ〜‼︎」
……本音は寂しいに決まっている。でもこの子はそれを表に出さない。この強さは、きっとみんなの指針になってくれるはず。だから、私も私の出来る事を頑張らないと‼︎




