青山 顎人(アオヤマ アギト)01 ☆画像あり
「次の方、どうぞぉ〜こちらへ」
どこからともなく声が聞こえる。……ん⁉︎ ここはどこだ⁉︎というか、なんだここは?どうも記憶がはっきりしない。感覚として横たわっている自分が全身何かに覆われているような包まれているような感じなのだが、目が開けられないでいた。というかコレは目を開けているのか⁉︎
俺は就寝する際、電気を全て消して光の一切入ってこない状態でないと寝れないタイプ。そしてその一切の光の遮断された真っ暗な部屋で仰向けになって寝ようとするのだが、当然目の前は真っ暗。もはや目を開けているのか閉じているのかすらわからなくなるのだ。そのうちに寝ている体の空間における位置認識すらあやふやになる感覚に陥る時がある。それと、今この現状が似ているのだ。
……今、目の前に広がる光景は真っ暗ではなく、逆に水面に光がぶつかりキラキラと乱反射しているような眩しい景色。しかし目を開けてるのか、つぶっているのかもよくわからない。……もしかして、この眩しさは水の中なのか⁉︎と意識がはっきりとしてきた瞬間、条件反射で立ち上がった。
バシャーン‼︎ と俺の動きに連動して覆っていたモノが一瞬に弾け飛んだようにも見えた。そこで初めて眩しさから解放され、一転して今度は霧に包まれた幻想的な景色が目に飛び込んできた。同時にびしょ濡れで真っ裸な自分にも気づいた。……ところが見渡しても浴槽や水槽と言った水を貯めるような容器はなく、だだ足元付近の地面だけが水浸しになっていた。
「次の方、どうぞぉ〜こちらへ」
俺の名前は『青山 顎人』。大学1年生である。今朝、いきなりバイト先の店長から「当てにしていた人のシフトが変わったので、急だけど出てきてほしい」と催促され仕方なく了解した。そもそも今日は彼女の誕生日だっていうのに一体誰だよ⁉︎ ドタキャンしたのは!!こっちにも予定があるんだよ‼︎ ……しかし今更、文句を言っても仕方ない。断りきれずに出勤を受けてしまった俺にも落ち度がある。当然デートの時間がかなり遅れそうだと連絡を入れた事に対し、彼女は烈火のごとく電話越しに怒ってきた。少しでも機嫌を直してもらおうと、バイトの前にプレゼントを渡す約束を取り付ける事でなんとか帳尻を合わせた。そして前々から用意していたプレゼントを片手に今まさに彼女との待ち合わせの場所に向かっている最中……のはずだったのだ。というか記憶がこの辺までしか思い出せない。俺は何かの事故に巻き込まれてしまったのだろうか⁉︎ ……だとしてもこの知らない場所にいる説明がつかない。
周りも見渡すが、記憶にない景色だ。というより霧がすごくて5mほど先すら何も見えない。ただその白さに紛れてうっすら木々が生い茂っているのは確認できた。そして次第に不安より冷静さが上回ってくるにつれて、静寂の中にかすかに聞こえる水の音、空気感、湿度、気温などを実感する事で、だんだんと自分のいる場所を認識出来る様になっていった。……どうやら俺は森にいるらしい。
「次の方、そちらにご用意してます服を着用してから、こちらにどうぞぉ」
声をする方を見渡すが、とにかく霧が邪魔で姿が見えない。かろうじてすぐそばにあった衣装は見つかった。女性の声はおそらくこの霧の向こうなのだろう。流石に真っ裸で声のする方へ行くのも恥ずかしいので、とりあえず適当に見繕って着替えた。そして声のする方へ恐る恐る進んでみた。
……霧は手でかき分けても何も変わらない。それどころか同じ間隔で霧も移動しているように感じる。つまり歩いても歩いても、見えづらさは一向に変わらないのだ。俺は足元に気をつけながらしばらく進むと、ようやく2人の人物影を見つけた。さらに近づくと、見た感じ俺と同年代くらいの男女二人が立っていた。実際に人に会えた安心感で、とにかく質問をせずにはいられなかった。
「あの〜ここはどこですか⁉︎ 自分はどうしてここにいるんですかね⁉︎」
俺は恐る恐る、聞いてみた。
「ちゃんと一から説明しますので、ご安心を」
……どうやら主導権はこの女性が握っているらしい。男性の方は静かに佇んでいるが、眼光だけは鋭く俺を見ていた。まるで俺の一挙手一投足を観察しているようだった。
「大事な話です。そしてこれからの話は嘘ではありません。……まず、あなたにとってみれば、ここは『異世界』です。正確には元の世界とは違うという意味です。しかし我々にとってみれば、あなたは『まだ不審者』です」
「い、異世界⁉︎ ふ、不審者⁉︎ ……なに言ってんだ、この人⁉︎」
「非常に残念ですが、あなたは元の世界で死にました。それを私どもがこの世界に呼んだのです」
「えぇぇぇ〜〜〜嘘でしょ⁉︎ 俺って死んだの?そもそも死んだ記憶がないんだけど⁉︎」
「そういう処置をしております」
「どういう処置⁉︎ 記憶削除みたいな事⁉︎」
「いえ、心が壊れる前にあなた自身が無意識の本能で『記憶封印』を行っています。私達はそれに干渉したまでです。」
「い、意味がわからないんだけど⁉︎」
「人は、死ぬ瞬間まで覚えていて、死んだ自覚があって、死に至る激痛を覚えていないなんて、そんな器用な事は不可能なのです」
「そ、そうなんですか⁉︎」
「では、あなたは寝る瞬間の記憶がありますか⁉︎」
「……い、いや、ないですけど」
「それと同じです」
「……いや、違うと思うけど、、」
「そもそも死の記憶は『生』には不必要です。そして大前提ですが、私どもはあなたの死には関与していません。ただ死者の魂に呼びかけて承認されたので、この世界に『転生』する運びになりました。なので、あなた自身がこの世界に転生するにあたり、精神が破綻しない為に死に至るまでの記憶を自らが封印しています。いわゆる『自己防衛本能』というものです。そして私達は記憶の改ざんなどは一切しておりません」
「よ、よくわからんけど、あなた達は神様なの⁉︎」
「いえ、私は神ではありません。【カミュール】と申します。隣は【神木 淘汰】です。」
「……どっちも名前に『カミ』が入ってるけど!?ほんとは二人とも神なんじゃないの⁉︎ つか、あれ⁉︎ ……男の方は日本人ぽい名前だね。もしかして⁉︎」
「その通りです。師匠『も』転生者なのです」
「カミュールさん、何度も言うけど師匠じゃないですからね‼︎」
「またぁ〜師匠は師匠じゃないですかぁ〜。照れなくていいですよん」
「それにカミュールさんの方が年上なんだから、師匠は変でしょ⁉︎」
「そういうのは関係ないんですぅ〜〜。だから師匠は師匠のままでいいんです‼︎」
なんか知らないが、目の前でわけわからん説明するだけでなく、内輪揉めし始めたぞ⁉︎ なんだこの展開⁉︎。……この期に及んで、なんで俺放置されてんの⁉︎ つか、この状況を理解しろって話が無理があるだろ。……とはいえ、今は情報が必要だ。とりあえず、聞いてみるしかない。俺は、二人のしょうもない会話を遮るように、質問した。
「あのォ〜‼︎ いいですかぁ〜!!転生って話はよくわからないんですが、それは後回しで。そもそもなんで俺は、ここにいるんでしょうか⁉︎ なんで『俺が』呼ばれたんですか⁉︎」
「私どもが必要だと感じそれをあなたが受理したので『転生』が成立しました。そして願わくばこの世界を救ってもらいたいのです。」
「この世界を救うだって⁉︎ ……俺ってヒーロー的な立ち位置なの⁉︎ 勇者的なポジションなの⁉︎」
「どちらかといえば、今は『誘者』でしょうか⁉︎」
「はぃ⁉︎ 誘者⁉︎ ……勇者じゃなくて⁉︎」
「あくまで資質としての可能性があるというだけで、そこまでは保証出来かねます」
……なに言い出すの!?この人⁉︎
初っ端から純正品じゃなくて粗悪品(バッタもん)みたいな扱いしてくるんだけど⁉︎ 保険勧誘してきて、いざとなったらその条件は保険対象外ですみたいな扱いなんだけど⁉︎
……つか、『この世界を救ってくれ』って、なんで俺にそんな責任負わせるの⁉︎ ある意味、バイトの店長よりも俺の扱い方が強引だよ‼︎ 決めつけ感が半端ないよ‼︎
……とはいえ、さてさて、どうしたものかぁ〜