-第三十章- 円い十字架(7)
「けどよ、そんじゃチャンスは一回きりってことだよな」
藍沢さんが問う。そうだ、そういうことになる。
「それにもし、リクのリバースがそこまで強力じゃなかったら?」
瀬奈の疑問ももっともだ。一度しか使えないリバース。浩二と似たようなものだ。だからつまり、使ってみるまでその強力さは図れない。
「大丈夫よ。私が保証するわ」
電極だらけの少女が、突如起き上がって口を開いた。
「あなた、最強の能力者だから」
何の根拠があって言っているのか。
「トオルの日記を読んだのでしょう?全知全能の成功品」
「だが、それは君のことだろう?」
確か始めてあったときにそう名乗ったはずだ。
「いいえ。あの時は嘘ついてごめんなさい。すべてを可能にする最高の能力者。異能力実験の本当の成功品。それに山添徹は気づいていたのよ。あなたがそれを持っていることに。『運命湾曲』決められた未来を捻じ曲げる力」
「だとすれば俺に見えている数字は?」
そうだ、確率を操作しなければ俺の能力は発動できない。
「そんなもの思い込みよ。能力なんてそんなもの。考えてみなさい。ほかの能力者たちは、具現化する、瞬間移動する、心を読む、どれだって『今』起こることでしょう。未来を変えられるのはあなただけよ」
自分ですら気づいていなかった本当の力。そうか、俺が持っているのは確率を操作できる能力ではない。運命を変える力なのだ。
「ありがとう。本当に成功する気がしてきた」
後は瀬奈とくーちゃんに協力してもらうだけだ。
「さあ、始めましょう」
No.75Cが両手を広げる。
その両端に瀬奈とくーちゃんが立つ。俺はNo.75Cと向かい合うように立つ。そして、各々手をつないでいく。
「これで本当に終わるんだな」
凛さんはどこか懐かしむような表情をしている。
「後は頼んだぞ」
藍沢さんもそれに同調する。
「最後に確認するぞ。瀬奈は能力の存在しない世界を強くイメージしてくれ。No.75Cはその空想とくーちゃんの能力無効化の力を拡散する。そして、そんな不可能に近い計画のたどる未来を、俺の能力で捻じ曲げる。絶対うまくいくさ」
瀬奈、くーちゃん、No.75Cが同時に首を縦に振る。
瀬奈が目をつぶり想像を始める。まずは瀬奈の能力が安定しなければならない。しばらく沈黙が続いた後、No75Cに目で合図をする。
それを待って、No.75Cが能力を起動する。彼女を取り巻く機械が唸るような音を上げる。そして、俺は目を見開いた。
数字を探せ。限りなくゼロに近い、計画の成功率を。
「ふふ、まだきちんと理解はできていないのね」
どんどんと機械の唸りが大きくなる中、No.75Cが笑っている。
「数字なんてどうでもいいの。想像して。あなたの望む未来を。そうすれば、その通りに運命は捻じ曲げられるわ」
少しの間を置いて、俺は一度目をつぶる。数字など関係ない、か。
-前回のあらすじ-
四人の力を合わせれば、異能力の存在しない世界を作りだせると気付く。