-第三十章- 円い十字架(3)
-前回のあらすじ-
瀬奈が連れ去られてしまった後に、藍沢さんの戦力を強化するため、薬剤を探して薬剤庫を捜索する。
俺は注射器を袋ごと手に取ると、そのまま藍沢さんの元へ持っていく。ちょうどその時、薬剤保管庫の奥の壁に、怪しげなランプが設置されていることに気付いた。
「藍沢さん、そこにランプがついてませんか?」
藍沢さんは一瞬首を傾げるが、振り返って納得したような表情を見せる。明らかに不自然だからだ。
そのとき、廊下を歩く足音が聞こえた。ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。もしこれがただの看護師であればよい。だが、もしそうでなかったら。俺と藍沢さんは息をひそめる。
足音が扉の前で止まる。自分たちの呼吸が異様なほど大きく聞こえる。
「ああ、ここだ。間違いない」
扉の外からは声が聞こえる。俺たちの存在に気づいている。それでも、もうここに逃げ場はない。じっと息を殺して待っているだけだ。
蝶番がきしむ音がして、扉がゆっくりと開けられる。そこにいたのは、真っ赤な瞳。けれどそれ以外は見慣れた姿。
「どうやら驚かせてしまったようだ」
安堵のあまり、全身から力が抜けていくのが分かる。凛さんと、その奥には壁際からちょこんと顔を出すくーちゃんがいた。
「全く、脅かすのはやめてくれよ」
藍沢さんが疲れ切った表情でそう言う。凛さんの後ろでは、くーちゃんがきょろきょろとあたりを見回していた。
「あの、瀬奈さんは……?」
痛いところをつかれた。当然ここにいなければ気になるのだろうけれど。
「実は、瀬奈は連れ去られた」
ここまで来たら正直に話すほかない。凛さんの表情が一気に険しくなる。
「となると、おそらくやつらは感応派増幅回路のある培養プラントにいるはずだ。急がないと計画を実行されてしまう」
このままでは多くの人間が苦しむことになる。そんな瀬奈の言葉が頭の中に響く。
行こう。そんな未来を変えられるのは、俺たちの他にいない。
「改めて、お願いします。みなさん、計画を止めるため、瀬奈を救うために、どうか力を貸してください」
一同そろってうなずく。後は培養プラントへ突入するのみだ。
藍沢さんは薬剤に注射針突き立てて吸い上げている。これで全員の戦闘態勢が整った。もう迷うことはない。