-第三十章- 円い十字架(2)
-前回のあらすじ-
地下室を脱出した陸斗たちであったが、渡辺の側近と戦闘になり、瀬奈もろとも『瞬間移動』によって消失してしまう。
「おい、冗談だろ」
小さな声で藍沢さんがつぶやくのが聞こえた。
「コード受諾。帰還命令。培養室へ直ちに向かいます」
No.75Cのいた空間がぐにゃりとゆがんだと思うと、彼女も姿を消してしまった。
本人が『全知全能』と表現していただけあって、さすがの応用力だと感心した。
そして、女子トイレには、俺と藍沢さんの二人が取り残された。
「今培養室って言ってましたよね」
「ああ、間違いねぇ。だが問題はそこがどこにあるかってことだ」
とにかくここを脱出しよう、と藍沢さんが提案する。俺たちはそっと廊下の様子をうかがうと、ばれないよう女子トイレを後にした。
病院の内部はすでに暗くなり始めており、現在の時間帯が全く朝でなかったことに気付く。さすがに数日間閉鎖空間にいれば時間間隔も狂ってしまうものだ。
俺たちは『培養室』を探すべく、病院内を調べて回ることにした。
「なぁ、何とかして薬剤を盗みだせないか。一応俺も戦えるようにしときたいんでね」
できればモルヒネと麻酔薬が欲しい、と物騒なことをいう。だが、過去に聞いた話が本当なら、藍沢さんは薬品を使えば他人の記憶を書き換えられるはずだ。うまくすればNo.75Cを正気に戻せるかもしれない。協力する価値はある。
「分かりました。何とかしてみましょう。でもまずは、薬剤が保管されている場所を突き止めないとですよ」
俺は壁に掛けられた館内案内図を指さす。藍沢さんも納得したようで、薬剤保管室を探すこととなった。
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結局のところ、薬剤保管庫は案外簡単に見つかった。藍沢さんの予想通り、地下室への出入り口付近にあったからだ。
「能力者たちが地下に収容されてんなら、その近くに鎮静剤なんかも置いときたいだろうからな」
「すばらしい推理でしたね」
目の前には、おそらく一般の患者には滅多に使われることのないであろう、怪しい薬剤が大量に並んでいた。
藍沢さんはそれらを手に取ってはしばらく悩んだ後、再び棚に戻すことを繰り返している。俺にはどの薬剤も同じに見えてしまうから、何をしているかはいまいちわからないのだけれど。
しばらくして、二つの薬品をポケットにしまうとこちらへ振り返った。
「そこにある、小さい注射器とってくれねぇか?」
机に視線を落とすと、言われた通り小さ目の注射器が転がっていた。ビニールのカバーがかかっていることから、未使用であることが分かる。
投稿時にエラーになっていることに気付かず、更新されて居ませんでした……。
投稿を心待ちにして下さった皆様にはご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。今後とも応援していただければ幸いです。