-第三十章- 円い十字架(1)
-前回のあらすじ-
くーちゃんと藍沢凛は、陸斗たちを追って行動を再開する。
緑、緑、緑……。どれだけ進もうと、俺たちの前に広がっていたのは同じ景色だった。よく考えてみれば当たり前のことだ。俺たちはこの地下空間を把握できていない。
モニタールームまで移動できたのも、すべてNo.75Cのおかげに他ならない。つまり、この状況を一言で言い表すならば、そう、絶体絶命である。
数分前に突如大きな爆発音が鳴り、その直後には警報が鳴り響いていた。その影響なのか廊下には多くの能力者たちがあふれている。おかげである程度渡辺刑事たちの追跡から逃れることができている。
けれど、決してこちらが有利なわけではない。地の利は敵にあるし、なにより最強の能力者が敵側についてしまった。とにかく今は地上を目指すほかない。
「ねぇ、あそこ風が吹いてきてない?」
瀬奈が正面の突き当りを指さす。一見、迷路で言うところの行き止まりのようにも見える。が、目を凝らしてみれば、そこには小さなはしご状の突起が壁から突き出ている。
今は迷っている場合ではない。試せるならすべて試すべきだ。
「行こう。外に出られるかもしれない」
みな一様にうなずくと、俺を戦闘にはしごへむかって歩みを進めた。
はしごの先は、狭い通気口のようだった。人一人がはいつくばってギリギリ通れる程度の広さしかない。
けれど、その途中にはスイッチのようなものがあり、さらにその先には鉄格子が見える。どうやらここは通気口に偽装されているようだ。
通気口の外側は、ピンクのタイルに、いくつかの個室、洗面台が設置されていた。
「まって、ここ女子トイレじゃない?」
瀬奈が慌てたように言う。
「まぁたどり着いちまったもんはしかたねぇだろ」
藍沢さんはやれやれ、と首を振る。できればここから外へ出るところは発見されたくない。
当然蔑むような目で見られたくないから、というのも理由の一つではある。けれど最も問題なのはそれによって足止めされてしまうことだ。
今はいち早く状態を立て直さないとならない。
「おい瀬奈、危ねぇ」
突然藍沢さんが叫んだと思うと、そのまま瀬奈に体当たりする。ちょうどその背後から、背の高い渡辺刑事の側近が出現する。あわや奴のドロップキックをもろに食らってしまうところだったのだ。
瀬奈は直ちに体制を立て直すと、見慣れた剣を出現させる。俺は周囲を確認し、落下の危険性のあるものがないかを確認する。シャンデリアの二の舞はごめんだ。
そのとき、ちょうど側近の背後、俺たちがつい先ほど通り抜けてきたばかりの通路から、No.75Cが現れた。
「対象を確認。捕縛します」
機械的な声でNo.75Cが言葉を発する。瀬奈は威嚇するように剣を向ける。
だがそれは間違いだった。No.75Cの発言により、彼女自身が何か攻撃を仕掛けてくるものと思ってしまったのだ。その一瞬の隙に、背の高い男が瀬奈の腕をつかむと、瀬奈もろとも消失したのだ。