-第二十九章- 安寧を捨てて(4)
-前回のあらすじ-
天井を破って侵入した凛さんと合流する。
できれば彼らと合流したいところだ。私はこの施設を知り尽くしているし、凛さんは大きな戦力になる。なにより、以前の凛さんよりもエネルギッシュな感じがするのだ。
「雰囲気変わりましたね」
「ちょっと喉を潤したまでだ。かつて私はおのれを見失ったが、守るべきものがあるとそうも言ってられんからな」
そう言うお前も雰囲気変わったな、と付け加える。もちろんだ。私は以前の一回りも二回りも強くなった。
「できれば神城さんたちと合流したいんですけど」
凛さんはしばらく目をつぶった後、静かに口を開く。
「廊下に出てる人間が多すぎる。が、走っているのは数人だ。おそらく人数は三人程度。あいつらだろう」
人数は愚か、走っているかどうかさえ私には判らない。けれど、きっと鋭い聴覚をもつ凛さんには聴こえているのだろう。さすがは人造吸血鬼といったところか。
私は凛さんにの後を追って、緑の廊下を歩き続けた。ちょうどA区画とB区画の境目、つまりはモニタルームの前まで来ると、凛さんは立ち止まる。
「血の匂いがする。近い」
凛さんはきょろきょろと周囲を見回して、その都度深呼吸をする。血の匂いを探っているのだ。
しばらくして凛さんの始点が定まる。モニタールームの方を見つめ、考え事をしているようだ。
「この先に隠し部屋でもあるのか?密閉度が高い。匂いはするが、ぼやけている」
確かこの先は……、そうだVIPルームだ。渡辺とその側近だけが入ることを許された、極秘の空間。だが、その中で血が流れたということは、一体何が起こったのか。
「やつらの痕跡がある。すでに消えかかっているが、薄い十字架が刻まれているのが見えるだろう」
神城さんたちは、ここまでたどり着き、そして中へと侵入したのだ。血が流れたということは、そこで戦闘が発生したことは間違いない。それが味方の血でないことを願うばかりだ。
本来ならモニタールームの鍵は常に開いているはずなのだが、緊急事態の発生と同時に施錠されてしまっている。これはトオルと侵入したときも起こっていた。
が、中から足を引きずるような音と、それに加えて荒い息遣いが聞こえてくる。誰かいる。隣で凛さんが身構える。
中から電子音がして、入口のランプが赤から緑に変わる。中の人物が外へ出ようとしているのだ。凛さんがこちらにアイコンタクトを送ってくる。このまま戦闘を始める気でいるようだ。