-第二十九章- 安寧を捨てて(3)
-前回のあらすじ-
記憶を取り戻したくーちゃんは、仲間と合流すべく、脱出方法を考え始める。
と、その時タイミングを図ったかのように爆音が耳をつんざく。まるで大砲で壁をぶち破ったかのような轟音だ。即座に警報が鳴り響き、私の目論見通りロックが解除される。
迷っている暇はない。入口のセンサに手を触れると、廊下へと飛び出した。
外は警報にうろたえる収容者たちがうろうろしていた。普段室外へ出られることなど滅多にないせいか、何をしてよいか分からずうろたえている。
まずは音のした方へ向かってみよう。たしか記憶に違いがなければ、ここから北上した先のA区画近辺で音が鳴っていたはずだ。
確かあそこの上は病院の駐車場だったはずだ。となると地下室の天井が破壊されたと考えるのが自然か。それほどの力を持つ能力者とは、一体どんな人物なのだろう。
部屋から顔を出した収容者たちでごった返す廊下を縫うように進み、A区画を目指す。定期的に迷いそうになるが、その都度冷静になって緑のランプの下にある、エリアナンバーを確認する。
B0エリア―ここはB区画の最北端、つまりはA区画との境目だ―までくると、若干視界が白く濁っていることに気付く。砂埃というべきか。何かが粉砕されたときのようである。
そのままA区画へと踏み入れると、周囲の壁にところどころヒビが入っているのが分かる。やはりどこか天井が破壊されたに違いない。そのまま私は北上を続ける。
しばらく進んだところで、天井がはげ落ちて、がれきのように道がふさがっているポイント発見した。しかし、これだけであれほど大きな音はたたないはずだ。つまり、目的地に近づいてきている証拠と考えてよい。
そこから東に曲がると、さらに砂埃が濃くなってきている。壁の損傷も激しく、目的地が近いことを示す。私はできる限り情報を見落とさないよう、細部にも注意を払って観察しつつ、歩みを進めた。
すると、砂ぼこりでぼやけてはいるが、何者かの影が視界に入った。その影はゆっくりと私に向かって歩いてくる。そのシルエットから予想するに、若い女性だろうか。
「待たせてすまなかったな」
流れるような長髪に、抜群のスタイル。唯一変わったことはといえば、瞳が真紅に染まっていることだろうか。
「凛さん、助けに来てくれたんですね」
自分の表情がほころぶのが分かる。そのまま凛さんに駆け寄ると、思い切り抱き着いた。
「ほかのやつらはどうした?」
一緒ではないのか、と凛さんが問う。聞き間違えでなければ、私が落ち込んでいる間に渡辺のところへ向かったはずだ。無事であることを祈る。