-第二十八章- 対峙(4)
-前回のあらすじ-
渡辺刑事たちと出くわした陸斗たちは、その場でNo.75Cが暗示に掛けられると同時に交戦を始める。
一瞬俺が迷ったその隙に、背中に強い衝撃が走った。男が瞬間移動した先でドロップキックを放ったのだ。俺はそのまま飛ばされ、入口の扉にたたきつけられる。
追撃を仕掛けようとする男に、横から藍沢さんが体当たりをする。俺の方に集中していたことが幸いして、その一撃は男に命中する。
その隙に、瀬奈が再びNo.75Cに向かって攻撃を仕掛けていていた。今俺がすべきことは、攻撃することではない。No.75Cを正気に戻すことではないか。きっとどこかに、彼女の暗示が解ける確率が存在しているはずだ。
だが、それを探す間もなく、別の数字が視界に入る。頭上のシャンデリアが落下する確率。そして、それが俺に命中する確率。
俺がそれに気付いたのは、急激にその値が増加し始めたからだ。No.75Cの力に違いない。彼女がちょうど俺の頭上を見上げている。
俺はその数字に触れ、できる限り誰にも当たらないよう操作する。だが、これを延々繰り返すわけにはいかない。さすがに体力にも限界がある。
俺が確率の調整を終えたころ、タイミングを図ったようにシャンデリアが落下してきた。大きな音を立てて絨毯に当たり、砕けた破片が一面に散らばる。当然、誰にも命中していないのだけれど。
ちょうどその時、シャンデリア越しに男が背負い投げされるのが見えた。能力を持たない藍沢さんに投げられているということは、接触されていると瞬間移動できないということだろうか。
それを見ると、剣を消した瀬奈がこちらへ向かって走ってきた。
「いったんここを出ましょう。地上へ出られれば、渡辺刑事は動きづらくなるはず」
走りだす俺と瀬奈に続き、藍沢さんもこちらへ駆け抜けてきた。
だが、モニタールームへ抜けようとしたその時、ゆっくりと太った男が目の前に現れたのだ。
「劣化複写か」
藍沢さんが悪態をつく。くーちゃんの能力をコピーしているイメージが強かったが、よく考えてみれば、瞬間移動能力もコピーできるのだ。
「先回りしたね。もうこれで逃げられないね」
太った男はにやりと笑う。だが、それにも動じず、瀬奈が背後から再び剣を取り出した。先ほどまで構えていたものとは異なり、少し小型で複数本握られている。それを両手に広げると、投げナイフのように男に投げつける。
だが、そのナイフは男の横をかすめて壁に当たっては消失するだけだ。当たる気配がない。と、そのとき男の頭上に浮かぶ数字が奇妙な動きをしていた。俺の力だ。コピーされている。
とはいえ、相手の能力は『劣化複写』だ。本物の能力者である俺が確率に触れれば、かなうはずがない。できるだけ気付かれないよう、その数字に俺は触れる。
次の瞬間には、男の悲鳴とともに、太ももから赤い血が流れていた。瀬奈は少々申し訳なさそうな顔をすると、こちらに向き直った。
「さあ、行きましょう。時間がないわ」
俺たちはそのまま、モニタールームをぬけて緑の廊下へと戻った。