-第二十八章- 対峙(1)
結局くーちゃんを連れてくることはできず、今に至る。俺たちは今、くーちゃんと凛さんを除いた四人で暗い地下道を進んでいる。相変わらず周囲は緑のライトで照らされている。
俺たちで渡辺刑事を止め、くーちゃんを助け出さねばならない。くーちゃんを置いていくという判断が、正しかったと証明するために。そしてなによりトオルの想いに答えるために。
「あの日記には何が書いてあったの?読んだんでしょう?」
瀬奈は気になって仕方がない、といった様子だ。
「大したことではないわ。どうしても知りたいのなら、すべてが終わったらお話しましょ?」
誰かが死ぬという可能性を一切無視したその発言は、きっと彼女だからこそできるのだろう。あれだけの能力をもってして、戦闘で死傷するとは到底思えない。
けれど、それは本人に限っての話だ。俺や瀬奈はまだよいとしても、能力を持たない藍沢さんは、抵抗するすべを持たないのだから。
俺たちは、No.75Cに誘導されるまま、碁盤の目のごとき地下通路を進んでいく。その両側の壁には、俺たちが収容されていたのと同じ扉が、無数に設置されている。ここには捕まった多くの能力者たちがいるのだろうか。それにしては不気味なほどに静けさに満ちている。
しばらく歩くと、正面に今までとは雰囲気の異なる扉が見えた。大きく両側に開くような、いわば門のような存在感だ。その前に立つと、頭上に緑のランプが点灯しているのがわかる。
「さて、ここからが本番よ。気を引き締めてね」
ためらうこともなく、No.75Cは扉を開く。とくにロックがかかっている様子もなく、簡単に扉は開いた。
中にはおびただしい量のモニターと、中央には禍々しい色合いでキューブ状の形をしたコンピュータが鎮座している。No.75Cはそのコンピュータに手を触れると、慣れた手つきで操作していく。
「初めてやる割には上出来でしょう?」
楽しそうに笑うNo.75Cは、何も知らなかった頃の瀬奈にそっくりだ。初めて、ということは、これはトオルの記憶をもとに操作しているということになる。今更ながらトオルは素晴らしい遺物を残してくれたものだと感謝する。
しばらくして、モニターにグラフや数値が大量に表示される。それには目もくれず、No.75Cがひたすらにキーボードをたたいていく。
「まったくずいぶんとそれらしい見た目じゃねぇか」
さすがは藍沢さんだ。この状況でも怖気づく様子もない。