-第二十六章- 記憶の中で囁いて(3)
-前回のあらすじ-
突如陸斗の部屋へ現れた少女は、2人目のクローンだと名乗る。
「君はいつから記憶があるんだ?」
「ずっと昔から。私が作りだされるよりずっと前。お母さんにいじめられていたころの記憶までしっかり残ってる」
とたんに目から光が消えたように感じる。冷たい目だ。この目を俺は見たことがある。
能力を使うときのトオルの目と同じなのだ。
「あなた、意外とバカなのね。まだ気づかないの?わたし、記憶を意図的に書き込まれてるのよ」
くーちゃんが記憶を消されたように、彼女は記憶を書き込まれているのか。確かに、くーちゃんも、本来なら記憶が書き込まれる予定だったと聞いている。
「でも、それとトオルに詳しいことに関係は……」
「それが彼の計画。本当なら私は、渡辺に忠実に使える僕としてのねつ造された記憶が書き込まれるはずだった。けれど、その記憶は山添徹によってすり替えられたわ」
だから私は彼の過去はすべて知っているの、と自慢げに言う。
「君が、最後の罠……?」
「彼はそう表現したみたいね。もう少しかわいらしい名前を思いつかなかったのかしら?」
「だとすれば、その人格はどこから来ている?」
知らない、とそっぽを向く。少なくともトオル本人とは大きく異なっているし、かといって瀬奈やくーちゃんとも違う。
よく考えれば、瀬奈とくーちゃんでもだいぶ性格に差はあるのだけれど。
つまりここまでの話をまとめると、自分が殺されることに気付いたトオルが、自分の記憶を最後の罠として成功品に書き込んだということか。
だが大きな問題が残ったままだ。仮に彼女がトオルの意思を引き継いだとして、俺たちがここを脱出できるわけではないのだ。瀬奈が二人に増えたところで、やつらに勝てる保証はない。
「わたしをなめないで頂戴。オリジナルなんか目じゃないほど素晴らしい能力に目覚めたから」
相変わらず彼女は得意げだ。
それは心強い、と言いたいところではあるが、今はそれよりも現状の打破を考えるべきだ。とくに今、俺は収容施設の監禁部屋から脱出している状態なのだから。
周囲を見回しても、ただひたすらに緑のライトが続いているだけだ。それも俺たちをあざ笑うかのように等間隔に。
「さっそくあなたのお友達を助け出しましょ」
ずいぶんと軽くものを言う。それができていたら、こんなに困っていないというものだ。
だが、No.75Cは仲間の扉の前まで行くと、いとも簡単にロックを外して見せた。
「感嘆の声を上げている場合ではなくてよ。早く行動を開始しないと、簡単に捕まってしまうわ」
なるほど、感嘆で簡単に捕まってしまうと。