-第二十五章- トリカゴ(3)
-前回のあらすじ-
過去を思い返すうちに、くーちゃんは徐々に自分に芽生えていた感情に気付き始める。
大切なものほど、失ってから気付くというけれど、その『失う』が重すぎる。遠くに行ってしまうだとか、けんか別れしてしまうだとか、そういう程度の話ではないのか。
胸の奥がズキズキと痛むのが分かる。心臓の鼓動に合わせてその痛みが強くなっては引いていく。
でも、認めたくないと思う自分もどこかにいる。もし今この状況で認めてしまったら、私の心は壊れてしまう。もう、自分を保って居られなくなってしまう。
だから、ここを抜け出すまでは、この気持ちはそっとしておこう。気付かないふりをしよう。そう、まだ私が外の世界を知らなかった頃のように。
私は一度立ち上がり、ベッドの上へと上った。ほかに誰もいないこの部屋で、ぼろぼろの毛布にくるまって小さくなる。目をつぶると、いくらか気分が楽になったような気がするのだ。
どうしてここにいたころの記憶は消されてしまったのだろう。もし覚えていたなら、もう少し役に立てたのではないか。否、ずっとここにいられればよかったのだ。むしろ、何も知らなければよかったのだ。
そうすれば、トオルに出会うこともなかったし、外の世界で自由を知ることもなかった。この小さな部屋を、小さいと感じることもなかった。
飼われている鳥が空を飛びたいと思わないように、私も外に出たいとなんて思わなかったはずなのだ。ずっとこの鳥かごの中で、幸せに生きていたかった。
でも、今はもうそう思うことはできない。飛び立ってしまったから。自由に羽ばたく喜びを知ってしまったから。そして、私は大切な人を見つけてしまったから。
もう、認めないなんて無理だった。ダメだってわかっているのに、それでも自分に嘘なんてつけない。そんなに私は器用に作られていない。
私は、トオルのことが好きなんだ。どうしようもないくらい。どうして生きていたころに気付けなかったのだろう。今更後悔したって遅いのだけれど。
それに、きっと彼は私のことなど案じていないはずだ。ずっと私たちの敵として、素性を隠して接近していたのだから。死ぬときにも、きっと私のことなんて考えて居なかったに違いない。
悔しいけど、片思いだ。私が作られてから初めての、だからつまりは、初恋だったのだ。
もし私を作った人物に会えるなら、伝えてあげたいものだ。私は失敗作なんかじゃない。きちんと感情もあるし、意思もある、そんな人間を作ることに成功したんだって。こうして、誰かに恋い焦がれていることが、その確たる証拠だ。
これ以上考えたところで、トオルが帰ってくるわけではない。もし仮にここを脱出できたとして、トオルに会えるわけではない。だったら、もうあきらめてしまおう。この世界に甘んじて、何もせずただ時間を過ごしていよう。
もし処分されるのだとしても、これ以上生きることができないのだとしても、それはトオルに近づけるだけだ。むしろ喜ぶべきことだ。
もう、すべてを投げ出して楽になろう。それが私にできる最善策に違いない。
くるまっている毛布が、少しだけ軽くなったような気がした。
あとがきにコメントを残すのは久しぶりですね(笑)
どうも、作者のM.P.Pと申します。最近登校時間が乱れてしまって申し訳ないです。ただ、徐々に終盤に近づいていますので、そのことを伝えに来た次第です。
ここのところ一気読みしてくださる方が増えてうれしく思っております。物語もクライマックスが近づいていますので、どうか今しばらく応援のほどをよろしくお願いします。