-第二十五章- トリカゴ(2)
-前回のあらすじ-
地下室に収容されてしまったくーちゃんは、過去のことを思い返す。
それでも結局、トオルと私はこの施設への侵入を強行したのだ。あのときは、自分の過去を知ることができる期待と、忘れたかったはずの過去を知ってしまう恐怖の、二つの感情が入り混じっていたことを覚えている。それでもまだ、今よりはだいぶ希望的状況だったのだ。
この後、私たちは神城さんと瀬奈さんにであう。つまり、私がクローンであることを知る。でも、このときはショックより真実を知れたことの喜びの方が大きかった。だって、自分が事件の犯人だったんじゃないかって疑っていたから。
これから少しの間は、幸せな時間が続いた。みんなでごはんを食べて、街の見回りをして。とはいえ、そのさなかに事件が起きた時は怖かった。けれど初めて目を覚ましたときに比べたら、仲間も増えたし恐怖は少なくて済んだ。
けれど、そんな幸せも長くは続かなかった。拠点の近くで私が襲われ、凛さんに助けられた。まだ生きていたことに安堵する一方、これからのことを考えないといけなくなってしまった。一人で出歩くのは危険だ。
さらに追い打ちをかけるように、カフェテラリアでの事件が起きる。トオルが、私たちに敵意をむき出しにして向き合った初めての出来事。この事件は、私の中に大きな傷を残している。どうしようもないくらい辛かった。トオルが敵だったなんて信じたくない。今だって、初めて出会った時みたいに、やさしい笑顔で助けに来てくれるんじゃないかと思ってしまう。
これで終わってくれればまだマシだったのだ。仮にトオルが敵だったとしても、生きてさえいてくれればよかったのだ。けれど、それで終わるだなんてことはなかった。ついに、トオルはこの世界から消えてしまった。
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ここまで思いだしたところで、握りしめた手の甲に、ぽつりと暖かいものが落ちるのを感じた。私は泣いているのだ。
「どうして……?ねぇ、なんで幸せになれないの」
涙が頬を伝う。違う。私は幸せになりたいんじゃない。ただ、ただ会いたいだけなのだ。
「お願い。トオルを返してよ」
言葉に出してしまったら、もう我慢なんてできなかった。私の涙は、ダムが崩壊したようにあふれ出し、思わずえづいてしまう。
あの日、何もわからなかった私を導いてくれたのも、能力者だと知って落ち込む私を支えてくれたのも、すべてトオルだったのだ。たとえ敵だってかまわない。だから、どうかもう一度、彼に合わせてほしい。せめてお礼だけでも、伝えてくれやしないだろうか。