-第二十五章- トリカゴ(1)
-前回のあらすじ-
真犯人にとらえられた仲間たちは、みな例の病院の地下室へと連れられ、収容されてしまう。
横に四歩、縦に六歩。私一人で満員のベッドに、むき出しのトイレ。これが私の世界のすべてになった。入口は赤いランプが灯り、内側から開けることはできない。それに、せっかく出会った仲間たちも、離れ離れにされてしまった。
私たちがここへ連れてこられたとき、神城さんは何か思い当たるところがあるような表情をしていた。それも、希望的な目論見があるような。
犯人については特に聞かされたわけではないけれど、それでも多分、渡辺刑事が悪者であることは間違いないだろう。
そして、不自然なことに、この空間に落ち着きを感じてしまっている自分がいる。緑の薄暗い空間に。私はかつて、こんな場所にいた気がする。以前トオルとやってきたときには気づかなかった。けれど、ひとりぼっちになってみると、何故だか懐かしい気がするのだ。
やはり私がここで作りだされたことに間違いはないのだろう。
もしかしたら、逃走する前の消された記憶を思い出すなんてことがありはしないかと期待してみる。けれど、私が見て回れるのはこの狭い一部屋だけだ。何か手掛かりを探すことも叶わない。
凛さんはここへやってくるだろうか。少なくとも外部の人間でここの存在を知っているのは凛さんしか心当たりがない。だが、トオルと私が侵入して以来、地下室の警備が強化されているとすれば、そう簡単には入り込めないだろう。
私たちはこのままここで黙ってみていることしかできないのか。瀬奈さんの言う、多くの人々が苦しむことになる計画が実行されていくのを。
私たちはどうすべきだったのか。狭いベッドに腰かけると、今までのことを思い返す。
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『君、大丈夫?柏木瀬奈さん?』
そうだ、この一言から私の記憶は始まっている。今思えば恐ろしいことだ。私はこの施設で作りだされた失敗作で、記憶を消されて捨てられたのだから。もしかすると、私は殺されていたかもしれないのだ。
そして私は凛さんに出会った。トオルに紹介されたのだったか。この時はまだ、二人の素性を全く知らないし、どちらも隠された過去があるだなんて思っていなかった。ただただ、私を助けてくれる優しい人たちだった。
けれど、神様はそれだけで私を許してはくれなかった。その数日後には事件が起きて、そこで初めて渡辺刑事と出会った。まさかこんな残酷な人間だなんて思いもしなかった。
そして、その場で私も能力者だということが判明する。あの時のショックは今でも忘れられない。身が凍るような、何とも言えない恐ろしさだった。
確かその後は、凛さんと話しあって、この施設への侵入を決意したのだったか。けれど、その計画を実行に移す前夜、凛さんは殺されてしまったのだ。あの事件を起こしたトオルは、どんな思いだったのだろう。今となってはそれを聞くことさえ叶わないのだけれど。