-第二十四章- 真実の足音(3)
-前回のあらすじ-
警察署で二人、渡辺と陸斗が会話を続ける。その中で、この事件の動機、目的など、すべてが語られる。
それから俺たちは、白いバンに詰め込まれ例の病院へと連行された。それが警察の車両でないことは明白だ。そしてそのまま病院の地下室へと向かう。
くーちゃんは、どこか懐かしがるような表情をして、あたりを見回している。確かトオルとここへ侵入したのだったか。あたりは薄暗く、緑のライトが道を照らしている。
俺たちの周りには、渡辺刑事とその仲間の男が二人。人数は圧倒的にこちらが多いが、相手の能力が強力すぎる故、抵抗は難しい。だが、不幸中の幸いというべきか、太った男がくーちゃんの能力をコピーしているおかげで、思考を覗かれることはないようだ。
つまり、現時点で残された希望は三つ。どこかへと身を隠した凛さんによる救出。これはまだ気づかれていないようだ。そして日記に残された『気づかれない罠』に救われることだ。かなり難しい手段ではあるが、俺たちの能力を使って逃走を図る方法もなくはない。だが、これだけ警備が厳しい上、相手にも能力者がいる。これは他に手立てのなくなったときの最終手段としよう。
現実的に考えて、まず期待すべきは凛さんだろう。この地下室のことも知っているし、能力者ともやりあえるほどの身体能力を持っている。もしトオルの作戦が成功するのなら、おそらくそれが最も強力な切り札となるだろう。しかし、『成功品』が何を示しているのかを突き止めない限り、その罠を有効に使うことはできない。
「ここに入れ。お前らは別々に収容する」
「騒ぐのは良くないね。どうせかなわないね」
押し込まれた部屋は、先の警察署の殺風景な部屋がマシに思えるほど、汚らしいところだった。ぼろいベッドにむき出しのトイレ。室内も暗く、ぼんやりと緑のライトが照らしている程度だ。
部屋に一歩踏み入れる。途端に全身にけだるいような不自然な感覚を感じる。
「悪いが能力の使用を制限させてもらうよ。そういう意味では失敗作も無駄ではなかったな」
そう言い終えると、渡辺刑事はくーちゃんの方を見る。失敗作とはひどいいいようだ。やはり元より彼女を人間扱いする気はなかったのだろう。
能力が制限されたことで、それを使った脱出は不可能となった。もともとその希望はないに等しかったから、大きな痛手ではない。それでも、可能性が一つ消えるということは、思ったよりも精神的負担が大きい。
扉が閉まると、ピピッと小さな電子音がして、ロックがかかったことを告げる。取っ手の部分のLEDランプが緑から赤へと変化した。
同様に、同じ並びの部屋の扉が閉まる音が聞こえ、全員が収容されたことが分かる。これで全員の能力が封じられたことになる。状況は絶望的だ。
トオルの仕掛けた罠を探すことは愚か、凛さんに見つけてもらうことも難しくなった。仮に見つけてもらえたところで、全員の救出はかなり厳しい。
仕方なくベッドに寝転がると、今日一日の出来事を振り返る。多くのことが起きすぎていて、頭を整理するだけでも一苦労だ。それに、疲れがたまっているのも事実で、気付くと俺は、意識が夢の中へと誘われていった。