-第二十四章- 真実の足音(2)
-前回のあらすじ-
渡辺刑事に連れられ警察署へ向かった陸斗だったが、そこでついに真犯人と対峙することとなる。
初めに聞くべきは何だろうか。やはり動機か。
「なぜ私がこんなことをしているのかって?それは瑠衣、いや、今は凛だったか。彼女を取り戻したかったんだ。あいつがこんな目に遭わない世界に改変しようとした。そのためには時を遡らねばならん。そのために時間に干渉できる能力者を探しているんだよ」
「そのために大勢の人間を能力者として覚醒させようとしたんですか」
どうせ思考を巡らせても読まれるだけだ。強気に発言した方がメリットは大きいはずだ。
「その通りだ。そのあたりはオリジナルから聞いたのか」
やつはずいぶんと嗅ぎまわっていたからな、と渡辺刑事は面倒そうな表情をする。凛さんのためと言われると、一見彼は人助けをしようとしているかのように見えてしまう。だがその実態は、多くの人間を苦しませる可能性があり、そしてすでに数人の被害者のでている、そんな計画の主犯なのだ。
「主犯だなんて人聞きの悪い。だがまぁ、それを否定する気はないさ。私は悪だ。瑠衣のためなら世界を敵に回したって構わないと思っている。俺は蓮ほどあきらめが良くないんでね」
そう言いきるころには、少し落ち着いた表情に戻りつつあった。仮に大量の能力者が必要な理由がそうであるとして、何故能力者を殺させていたのか。
「なぜトオルに能力者を殺させたか……か。君ももう知っているだろうが、往々にして能力というものは副作用を伴う。それは時に死の瞬間にしか現れないものもある。もし時を遡る力が存在するならば、そんな強力な力、命と引き換えに違いないとそうは思わんかね」
それだけの理由で――。そう言おうとした時だった。
「やだ、やめて。どうして?」
隣の部屋から怯えた声が聞こえる。瀬奈かくーちゃんか。俺はしばし忘れつつあった怒りの感情が、自分の中に再び押し寄せてくるのを感じた。彼女たちに手出しはさせない。
渡辺刑事に向き直ると、俺はできる限り急いで、彼の能力が不発に終わる確率を探す。これはスピード勝負だ。俺と渡辺刑事のどちらが先に能力を使うか。
俺が先ならば形勢逆転だ。だが、相手が先ならば、まだ逃走の意思があることを悟られてしまう。
と、彼の頭上に浮かぶ限りなく百パーセントに近い数字。おそらく能力の成功率だ。今は迷っている場合ではない。その数字に手を伸ばす。
だが、その数字にふれる刹那、突如としてもやのようなものがかかり、数字がかすんでしまう。この感覚には覚えがある。トオルが逃走したときに能力が使えなかった時と同じだ。
「リバースコピーの力は便利そうだね」
渡辺刑事が声を立てずに笑う。その背後には、もう見ることもないと思っていた、あの男が立っていた。
「能力を奪ったね。これであいつは力を使えないね」
特徴的な話し方の、太った男。病院で俺に薬を飲ませた人物の一人。こいつも能力者だったのか。俺は必死に思考を巡らせるが、「奪った」という言葉の意味を理解しきれない。
「君は知っているのではないかね?彼こそ『劣化複写』だよ。今はリバースコピーの力を借りている」
リバースコピー……。さきほどから幾度となく言葉にされる名前。きっとくーちゃんだ。瀬奈がオリジナルと呼ばれていることは間違いない。ならば、そのリバース能力をもつクローンなら、そう呼ばれるのもおかしくはない。
こうなってはお手上げだ。能力を使えないとあっては、俺に抵抗手段はない。それに、ここにあの男がいるということは、背の高いもう一人の男もいると考えるのが自然だろう。おそらくほかの仲間はそいつに拘束されているはずだ。
今はただ、素直にやつらの指示に従う他、生き残るすべはない。