-第二十四章- 真実の足音(1)
考えろ。考え続けろ。おそらく仲間のうちで、今最も真実に近いのは俺だ。
藍沢姉弟も切れる頭で推理しているだろうけれど、ここまでの情報は持っていない。それに、俺は真実を見ているはずなのだ。それに気付けていないだけで。
どこかひっかかるこの感覚はなにか。
既視感――違う。違和感――それだ。何かがおかしい。普通でない出来事が起こっていたはずだ。とはいえ、ここのところいささか普通と呼べる事象は起こっていないのではないかという気もしてしまう。それゆえ混乱しているだけなのか。
記憶を掘り返すように思考を続ける。トオルの遺体、骨だけになった溶けた死体、そして屋上から落下する浩二。皮肉なことに、思いだしたくない記憶ほど鮮明に思い浮かぶ。
警察署の無機質なコンクリート壁が目の前には広がっている。普段なら何の面白みもないこの壁に好感など抱かないのだろうが、今はかえって集中できてよい。
トオルは虐待されていたと藍沢さんが言っていたか。確かに日記では母に対する恨みじみた感情が綴られていた。だが、それとて起こりえない話ではない。もっとなにか、確信をもって「普通ではない」といえる事案があったように思えてならないのだ。
トオルの父は?離婚だろうか。だがそれもまだ普通の範囲内だ。
――俺の家族は?どうして俺に連絡を取ろうとしない?
そもそも警察に俺が連行された時点で、家族に連絡がいくのが普通ではないのか。精神鑑定を受けた後には、家族との面会があってもおかしくはないのではないか。
トオルとくーちゃんの件とて同じだ。凛さんが死亡したと思われたのち、普通未成年を二人身元も確認せずに開放などするだろうか。
これだ。確信をもって「普通ではない」といえる事案。これをできる人間は一人しかいない。それに、トオルの『事件となれば●●がやってくる』という一文。そこに警察の人間の名前を入れれば、これらはすべて成立してしまうのだ。
バタン、と音がして、俺の背後に誰かが立つのが分かった。
「凛と蓮あたりが最初に気付くかと思っていたが、まさか君が最初とはね」
渡辺敦。手にはそう書かれた名刺が握られていた。かしこまって僕にその名刺を渡す。この事件の真犯人は、不気味なほど冷たい笑みを浮かべていた。
この近くに武器になるものはないか。たとえ石ころだって、俺の能力を使えば致命傷となりうる。
「まったく、まだ私を出し抜こうとしているのか。トオルと言い、最近の若者は教育がなっていないなぁ。石ころなんてこんなところにあるわけないじゃあないか」
思考を覗かれている――。
「おお、そこまで君はたどり着いていたのか」
関心するよ、と軽く拍手をして見せる。だがその表情は全く称賛の意がこもっていないことがにじみ出ている。
「この際だ。答え合わせといこう。まず、何が訊きたいかな」