-第二十二章- 想い、空に舞う(5)
-前回のあらすじ-
渡辺刑事に拘束された一同は、いくつか会話を交わす。
今になって凛さんが慌てたようにこの場を去った理由が理解できた。トオルが殺されたことに動揺して、広い視野を持てていなかったと反省する。
「悪いけど、さっきも言った通り、一度警察署まで来てもらわないといけない。とくに神城君に関してはちょっと手続きが必要だからね」
このままでは逃走した容疑者を確保した、という扱いになってしまうらしい。まぁ、事実病院から脱走したわけだし、当然の対応ではあるのだけれど。
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当然学校から一番近い警察署ということは、以前僕が連行された場所と同じということになる。入口も見覚えがあるし、中の事務所部分も覚えている。
「すまないが、ここでしばらく待っていてくれないか。念のため言っておくが、容疑者という扱いだ。変に仲間内で接触しようとしないでくれよ」
俺の仕事が増えてしまう、と渡辺刑事が笑う。
そんなわけで、俺は一人で待機室に送られた。ほかの仲間は数人ずつに分けられて待たされているらしい。俺の場合は特別で、「逃走」というステータスがついているせいで、他とは隔離されているとのことだ。
待機室はお世辞にも広いとは言えず、小さな机にちゃちな椅子、針金入りの窓があるのみだ。日もあまり入らず、薄暗い。俺は病院送りになった日を懐かしみつつ、椅子に座って呼ばれるのを待つことにした。
椅子に座ったときに、ポケットの違和感に気付く。日記だ。ありがたいことに、この部屋には監視カメラが一台しかない。自分の体で隠すように取りだせば、ここで読めないこともない。さらに言えば、この後持ち物検査がある可能性も考えられる。となれば読むのは今しかないということになる。
果たしてここに真犯人が書かれているのだろうか。それともトオルが主犯で違いないのか。
血にまみれた日記は、開こうとしてもうまく開かず、破れてしまう。読めるページは限られていそうだ。それに、血のシミのせいでところどころ読めない部分もある。それでも、混乱しきった俺たちにとっては、重要な情報源であることに変わりはない。
日記は、トオルが小さかったころから始まっているようだ。シミによってはっきりと確認はできないが、誰かに拾われた日から始まっていることは読みとることができた。