表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円い十字架  作者: M.P.P
65/102

-第二十二章- 想い、空に舞う(3)

-前回のあらすじ-

 浩二が転落した屋上の扉を開けると、そこには変わり果てた姿のトオルがいた。

 口の周りこそ赤黒く染まっているものの、他にはこれと言って目立つ外傷もない。足元に視線を移すと、そこに彼の死因を裏付けるものが転がっていた。


舌だ。舌を噛み切ったのだ。もちろんそれだけですぐに命を落とすことはない。だが、追い打ちをかけるように口に日記を詰めこんだ。それによって血液が喉へ流れ込み、窒息したのだろう。だから顔が青ざめているのだ。


「あ……」


くーちゃんが声にならない叫び声をあげる。俺は何を思ったのか、トオルの口に手を突っ込むと、中から日記を取り出す。が、生々しい血にひるんだのか、それとも単に血でぬめっていたのか、手からそれは滑り落ちた。


 日記は手すりに当たると、そこに血痕を残して下へ落ちてゆく。一方トオルの口からは、栓を抜かれたようにだらだらと血が流れ落ちた。


「おい貴様、ここで死ぬなど許さんぞ」


凛さんが今にも泣きそうな表情をしている。彼女もこんな顔をするのか、と思った。


 だが、すでにトオルの目は焦点があっておらず、顎が硬直し始めているのが分かる。俺たちが到着するより前に絶命していたのだろう。


「リク、あれ、取ってくるね」


地上まで落ちた日記を指してそう言う。瀬奈の背には、あの時と同じ翼が生えていた。


 瀬奈はそのまま柵を超えて飛び降りると、ゆっくり羽ばたきながら降下していった。まるであの時の浩二のような――。だが決して彼女が死ぬことはない。あの時とは違う。


 再び瀬奈が俺の視界に現れた時には、少し砂にまみれた日記を持っていた。地上から拾い上げてきたのだ。


「まて、これって最悪の状態じゃねぇか?」


藍沢さんが指さす先には、監視カメラが設置されていた。トオルの死体が置かれていた場所はちょうどその死角に当たる。出入り口の扉が見えない位置に設置するとは滑稽極まりない。


 そして、それ以上に問題であるのは、俺たちがトオルを動かしてしまったせいで、カメラにばっちり映ってしまっていることだ。


「まずい、警察きてる」


頭上から瀬奈の声が聞こえる。右手に日記を持ったまま、ホバリングをしていた。


「ここで交戦するわけにもいかない。蓮、誤魔化すすべはないのか」

「こうなっちゃもうどうしようもねぇ。それこそコイツが生きてりゃあ、警察を操ってもらえたんだろうけどな」


冗談めかしたことを言っているが、顔は真剣そのものだ。


「多少博打的ではあるけど、俺に案がある」


渡辺刑事だ。彼がもしここにやってくるのなら、わずかながら話を聞いてもらえる可能性はある。あの時だって、俺の無罪を納得してくれたのだから。


「これはリクが持ってて。私たちだと見つかる()()()があるから」


トオルの服で血をぬぐうと、ズボンのポケットに押し込む。多少血が付いてしまうが、今はそれを気にしている場合ではない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ