-第二十二章- 想い、空に舞う(1)
-前回のあらすじ-
拠点で最後の食事を済まし、一行は出発する
拠点を離れてからすでに一時間近くが経過している。未だ俺の通っていた高校には着いておらず、歩きっぱなしで疲れも見え始めた。定期的に索敵を繰り返す凛さんを除いては。
白昼堂々と移動するというのも滑稽な気がするが、日が暮れてからの移動はより危険だと判断したのだ。日中なら視界も十分であり、能力による迎撃も容易になるからだ。
とはいえ、いつ何時トオルにコントロールされるか分からない。そのため常にくーちゃんのそばを離れないよう行動する。ついでに凛さんが定期的に高所へ上り索敵を行う。これでしばらくは対応できるだろうと考えた。
「おい凛。無理すんなよ。輸血パックは持ってきてるからな」
藍沢さんの声に、歩道橋へ跳んでいった凛さんがうなずく。確か凛さんは血液の補給が必要不可欠なのだったか。
後ろから大きなエンジン音が聞こえる。ビルの間の狭い道にも関わらず、そこそこな大きさのトラックすぐ後ろまで来ていた。俺たちは壁に寄り添うようにして道を譲る。
「よく考えたらこの大人数での移動は不自然極まりないな」
確かに凛さんの言う通り、だいぶ目立つ集団である。しかし、くーちゃんが一人しかいない以上、まとまって行動するほかないのだ。
トラックがゆっくりと横を通り過ぎ、再び加速して離れていく。運転手の様子は銅だったか。角度がきつく確認できなかった。身近なトオルが犯人だとわかった今、すべてが疑わしく感じてしまう。
トラックが角を曲がり見えなくなると、俺たちは再び歩き始める。学校まではそう遠くない。遅れがちなくーちゃんを励ましつつ、歩みを進めた。
「どうしてトオルはあんなことしてるんだろ」
「確かに不思議だよな」
不思議、というよりは不自然と言った方が良いかもしれない。
「とくに動機になりそうなものも思いつかないけど」
全く心当たりはない。だからこの言葉だって誤魔化しているとかそういうわけではない。
「陸斗、気づいてねぇのか」
気づいていないとはどういうことだろうか。藍沢さんはまたもにやりとしている。
「あいつ、虐待されてたんだよ」
寝起きにビンタをされたかのようなショックだった。全くそんなそぶりはなかったはずだ。
「どうして」
藍沢さんは気付いたのか。俺は気付けなかったのか。
「銭湯行ったろ。全身に傷の跡があった。とくに脚はひどい」
多分母親に暴行されたのだろう、と藍沢さんは続けた。何故母と特定できたのか。
「それに、あいつは女に対する警戒心が強い。凛も瀬奈も、能力でコントロールされていた。それだけ信用できなかったんだろうな。くーちゃんは能力の影響を受けないから例外として、あとは俺とお前、つまりは男に対しては特別能力を使った形跡はない」
「さすがですね」
自分の口から出た言葉でありながら、その真意が分からなくなっていた。それに気付いた藍沢さんを褒めたのか。それとも隠し続けたトオルに対してなのか。
角を曲がると、次の突き当りに高校が見えた。