-第二十一章- 追跡者(3)
-前回のあらすじ-
拠点で最後の食事の準備を進める
藍沢姉弟がもめていると、瀬奈さんが不機嫌そうに皿を持ってきた。
「まったく仲がとてもよろしいこと」
仕事をすべて任せたまま口論を始めたことに腹を立てているようだ。とはいえ私は手伝おうと思っても能力のせいで缶切りに触れられない。それで仕方なく二人の会話を聞いていたのだ。
「提案なんだけど、この後学校に行くのはどうだろう。方角も西ではないし、それに、せめて浩二が生きていた証拠だけでも残しておきたい」
「まぁいいんじゃないの。どうせ行く当てもないわけだし」
神城さんの案は採用されるようだ。私はこれ以上瀬奈さんを怒らせまいと箸を配る。
食卓には色とりどり、とは言い難い缶詰たちと、非常食の数々が並んでいる。大人が二人になったこともあり、多少の狭さを感じつつも私たちは食事を始めた。
私は中央に盛られた炊き込みご飯を器に取る。これも缶詰だったはずだ。いざ口に運んでみると、とうてい缶詰とは思えないほどおいしい。米もちょうどよい焚き加減だし、味付けも悪くない。
「思ったよりこれうまいな」
神城さんは缶詰の肉を頬張っている。改めて考えてみれば、この状況すら藍沢さんは読んでいたということになる。荷造りの時点で残りの缶詰を詰めているのを目撃したし、それでも余るほどの非常食が備蓄されているのだから。
だとすれば、藍沢さんはいつからトオルが犯人だと気づいていたのだろうか。私は襲撃を受けるまで気付かなかったし、きっと神城さんも同じだろう。
「あの、藍沢さんはいつからトオルが犯人だって気づいてたんですか?」
「それについてなんだが、初めに気付いたのは俺じゃねぇんだ」
「え?」
どういうことだろう。ほかに気付きそうなほど感のよい人物は凛さんくらいしか思いつかないが、もしそうであるならあのような殺され方はしなかったはずだ。
「ああ、それわたし。相手が能力者かどうかわかるもの」
そうか。たしか瀬奈さんのリバース能力は『対象が能力者かその素質を持つ人間か分かる』というものだったか。
「だったらどうしてすぐみんなに知らせなかったの?」
「そこがあいつの厄介なところよ。私も最初のうちはコントロールされていたんだけどね。でも銭湯でくーちゃんに触れたでしょう?それで洗脳が解けた」
私の能力だ。今まで特に意識していなかったけれど、私は自分が能力の影響を受けないだけでなく、触れたものの能力も無効化できるようだ。
これは考えようによっては、トオルに対して非常に強く出られる点でもある。私がいる限り、トオルは私たちをうまくコントロールし続けることはできない。だが、これをいいことに油断するわけにもいかない。敵は集団で行動しているらしいことも分かっている。
「よし、腹ごしらえも済んだし、そろそろ行動開始といきますか」
藍沢さんが立ち上がる。いよいよ拠点を放棄する時がきた。仲間もみな荷物を担ぎ、出発の準備が完了した。
諸事情により、明日も休載とさせていただきます。
ここのところ休載が多く申し訳ありません……。今後もぜひよろしくお願いします。