-第二十一章- 追跡者(2)
-前回のあらすじ-
拠点を放棄する前に、コンセントやタップをすべて排除する。
ピピっとタイマーの音が鳴り、缶詰が温まったことを知らせる。私はやけどしないように注意しつつ、トングで鍋から缶を取りだしていく。本来ならこのまま私が開けるべきなのだろうが、残念なことに缶切りを持つことができない。先ほどのように消えてしまうから。
私がどうすべきか戸惑っていると、後ろから手を伸ばして瀬奈さんが缶詰を取り上げる。そのまま能力で生み出した缶切りで手早く缶を開けていった。
「ここにももう戻ってこないわけだし、電源全部引っこ抜いとくか」
藍沢さんが拠点にあるコンセントを片っ端から抜いているようだ。普段はガサツな割には、こういうところは几帳面なようで、コードだけでなくコンセントに刺さったタップまですべて取り除いていく。
「もう大丈夫だろう。陽動も完了だ」
藍沢さんががははと笑う。
「まったく蓮にしては芝居がかったことをしていると思った。どうせ西になど行かないだろうに」
凛さんの言動から察するに、さきほどの会話はわざと聞かせたということか。つまり盗聴器に「西へ移動する」と聞かせておいて、私たちは別の方角へ移動する。これでしばらくの間は追跡を免れられるということだ。
だが問題は敵がそれに気付かない保証はないということだ。盗聴器の存在にこちらが気付いたことは敵にも知られている。その状態での発言をどの程度信用してもらえるかによって出方は変わってくる。偽の情報をつかませてはいるものの、依然として慎重に行動しなければならないことに変わりはない。
私はもともと少なかった荷物をまとめると、カバンにすべて詰め込む。本当ならトオルが私の着替えを持ってくるはずだったのだ。だがもう彼を頼ることはできない。それに、かつての拠点に戻ることさえ不可能になってしまった。
「全く、ふざけた研究をさせられた上、証拠隠滅まで不可能にされるとはな。あとで慰謝料請求してやろうか?」
凛さんがいつもになくいたずらっぽい笑顔を浮かべている。すべてを思いだしたうえで再開できたのがうれしいのだろう。聞いたところで、本人はきっと否定するだろうけれど。
「昔から変わらねぇな。細かいところで噛みつくと嫌われるぜ?」
「貴様がこんな記憶を捏造しなければよかっただけだろうが」
記憶がよみがえったのは喜ばしいことだ。私にはそもそも初めから昔の記憶がなかったのだから。