-第二十一章- 追跡者(1)
結局昼食は拠点にあったもので済ませることにした。非常食としてカンパンや缶詰が残っていたし、なによりもうここに戻ることはないとわかっていたのだから。
私は仮設コンロで湯を沸かすと、そこに缶詰をつぎつぎ放り込んだ。勢いのあまり飛び散ったお湯が火にあたって蒸発する。缶詰が入ったことによって暫し静かになっていた鍋が再びぐつぐつと音を立て始めた。
「飲み物はないのか?」
「わりぃな、そこの携帯飲料水だけだ」
凛さんが必死で防災バッグをあさっているが、藍沢さんの言う通りそこには水しか入っていなかった。
そもそもおいしいものを食べることを目的としていないのだから当然だ。わたしは缶詰が温まるのを待った。
「缶切り缶切り……」
瀬奈さんが何かつぶやいている。
「どうしたの……?」
「その……缶切り失くした」
そう言う瀬奈さんの右手には、新品のように光る缶切りがあった。
「こっちに置いておくね」
私が瀬奈さんから缶切りを受け取ると、それをテーブルの上に置く。はずだったのだけれど、わたしの能力のせいなのか、缶切りは一瞬にして姿を消してしまった。
「あっ、また作らなきゃ……」
瀬奈さんがしょげたように言う。私は悪いことをしてしまったと思い、必死で謝った。
ちょうどそのとき、亡くなった友人の話が出てから少し落ち込んだ様子だった神城さんが、おもむろに立ち上がり凛さんの方へ歩いていくのが見えた。
「そういえば、秋葉原の事件のときもトオルは別行動だったし、事件直後に都合よく現れた。なにより俺は一度トオルの顔を見ていたはずなんだ。あの学校の屋上で」
「なんだ、気付けたはずだとでも言いたいのか」
「そうです。なのに俺は気付けなかった。あれほど浩二のことを悔しいと思っていたのに」
「だからこそだ。強すぎる思いはときに視界を曇らせる。適度に肩の力を抜くことを覚えろ。まぁ、蓮はちょっと抜き過ぎだとは思うがな」
神城さんは小さくうなずくと、悔しそうに口を閉じた。
「そうは言うものの気にすることではない。お前とてあいつにコントロールされていたのだろうから」
はっとしたように目を見開くと、そのまま神城さんは座り込んで再び考え事を始めたようだ。