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円い十字架  作者: M.P.P
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-第二十章- 山添徹(4)

 しばらくして、頭がくらくらするまま母に担ぎ上げられたのを感じた。重力の方向さえもうよくわからないほど僕は痛めつけられてしまったのだろう。


 否、狂っているのは重力の方だ。腫れた目を何とか開くと、どんどん遠ざかっていく母が見えた。


 鈍い音が体中を駆け巡る。脚が重く動かない。鈍い痛みが心臓の鼓動とともにひいてはぶり返す。上半身を起こそうと頭を持ち上げるが、唸るようにぐわんぐわんと目が回って体制を安定させられない。


 何とか手を伸ばして動かない脚に触れる。ぬるぬると何かに濡れていて、硬い突起物が突き出ている。血と骨か。折れた骨が皮膚を貫通して飛び出してしまっているのかもしれない。


 頭の唸りも増して来て、眠気が強くなってくる。あいつにも同じ目にあってほしい。この苦痛を知ってほしい。母と呼びたくもない僕の母親に。


 そのとき、僕の肩をたたく人物がいた。何者かははっきりとしないが、中肉中背の男性のようだ。

「●●というものだ。僕の元へ来るといい。傷も治してやるし、君の望むものを与えよう」


* * * * * * * * * * * * * * *


 目が覚めたのは暗い緑の照明の部屋だった。AH総合病院の地下室。ここにいるからこんな悪夢を見たのかもしれない。思いだしたくもない過去。あの日から僕は、他人に見せたい幻を見させられるようになった。きっとあの地獄を母にも見せたかったからなのだろう。あまりに辛い経験だったから、記憶のどこかにしまい込んでしまっていた。もう二度と思いだすこともないと思っていた。だってあの後母は―。


 けれど一つ大切なことを思いだせた。あのとき僕は、従うしかなかった自分の弱さも憎んでいたのだ。今とて同じではないか。抗うこともできずに、くーちゃんたちを裏切って……。

 もう一度●●に会おう。これからのことはそこで決める。解決にはならなくとも、何かしらの答えは見つかるはずだ。


 部屋を出て右に曲がる。碁盤の目のようになっているこの地下室も、慣れてしまえばむしろ迷いにくい。いたるところに書き込まれたアルファベットと数字が、座標のように自分の居場所を教えてくれる。


 途中ガラス張りの部屋の横を通過する。普段は滅多に人がいることはないのだが、今日は事情が違ったようだ。室内にはかわいらしい少女がぺたんと座っている。柏木瀬奈モデルのクローンだ。


 心臓がドクンと跳ねるのに気付いた。我ながら恥ずかしくなる。そこにいる少女はくーちゃんではない。むろん瀬奈オリジナルとて彼女ではない。ほかの誰にだって、彼女の変わりは務まらないのだ。


 笑顔で手を振るクローンを後目に、僕は●●の部屋をノックした。


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