-第十九章- 幻惑(2)
-前回のあらすじ-
カフェテラリアでは、藍沢蓮とトオル、瀬奈、謎の女が戦闘を開始していた。
―はずだった。気付いた時には体が宙に浮き、ハンドガンも手から離れている。俺の叫び声に気付いた女が、尋常ならざるスピードで俺にとびかかり、ハンドガンを蹴り飛ばしていたのだ。あまりの衝撃に、俺は地面に仰向けでたたきつけられる。その女の肩は真っ赤に染まっているが、俺を押さえつける手は力強い。
横目で瀬奈の方を見ると、苦しがる彼女の横で、藍沢蓮に取り押さえられたトオルが、注射器をつきつけられているところだった。まずい、このままでは藍沢蓮の思惑どおりになってしまう。
何か操作できる確率はないか。女に取り押さえられたままあたりを見回す。そのとき、藍沢蓮ともみ合っているトオルと目が合った。トオルは何か閃いたような表情をすると、そのまま俺を見つめる。
はっとした。そこにはあの目が存在していた。凍り付くような目。あのとき、浩二に向けられていた目。あの時見たはずの、思いだせなくなった犯人。
それは、今目の前にいる、山添徹だったのだ。確か犯人の能力は、洗脳のようなものだったか。このままでは俺の思考はコントロールされてしまう。そのとき、視界にちらつく数値があった。『98.2%』そうか、彼の能力も失敗することがあるのだ。俺はわずか二パーセント程度のその値に触れ、とたんに襲うけだるさと戦いながら操作する。
トオルの表情が曇る。どうやら能力は不発に終わったようだ。
となると、藍沢蓮はトオルの敵、すなわち俺たちの味方ということになる。ならば、瀬奈はトオルに操られていたのか。
「すみませんでした。今すべてを理解したつもりです」
俺は女にそう告げる。おそらく彼女も俺たちの味方であるはずだ。
「ずいぶんと察しの悪いやつだ。気付いたならとっとと加勢するといい。お前も能力者なのだろう?」
「ええ。よろしくお願いします」
女は俺を開放すると、瀬奈の方へと駆け寄っていった。否、跳んでいったとでもいうべきか。やはり人間とは思えぬ身体能力である。
俺も立ち上がると、蹴とばされて転がっていたハンドガンへ手を伸ばす。
「くっ、もう来やがったか」
藍沢さんの声が聞こえる。黒塗りの車から数人のスーツを着た男が降りてくると、すぐさま藍沢さんを突き飛ばしトオルを確保する。
俺はとっさに弾丸がタイヤに命中する確率を操作しようとする。―が、その数値には今まで経験したことのないような、ノイズとでもいうべきくすみがかかっているせいで触れることができない。車はそのままトオルを乗せると、猛スピードで現場を去っていった。