-第十八章- 鮮血と珈琲と(3)
-前回のあらすじ-
藍沢さんが凛の過去を語る。
ここまで話を聞いたところで、マスターがコーヒーをもって現れた。藍沢さんの言う「いつもの」とは、シンプルなブラックコーヒーだったようだ。
「でも、異能力研究だなんて言ったら変に注目されない?」
瀬奈さんが再び話題を戻す。
「そこがキモなんだ。あえて胡散臭い分野にすることで、誰も相手してくれなくなることを狙った。
だから凛の話は訳分かんなかったろ?あれはわざとそうしてあるのさ」
確か凛さんは、十字架がどうのと言っていたか。
「異次元から十字架を……」
「ああ、それのことだ。異次元だの十字架だの、そんなものはありゃしない。あるのは薬と、その作用だけだ」
私の思考がどうやら口にでていたようで、藍沢さんが説明を付け加えた。
「てことは、私が聞かされた話は全部、偽物ってことですか?」
驚きのあまり、自然と質問が飛び出していた。
「もちろんそうだ。そもそも人間には生まれつき超常的な力が備わっている。たまに奇跡の生還を遂げるやつとかいるだろう。そういうやつはたいてい無意識に能力を使っている」
確かに奇跡的な生還をとげたり、不思議な現象を起こしたりする人間はまれにいる。だが、もしそうだとすれば、人間はみな能力者だということになりはしないか。
「でもそれって誰でも使えるわけじゃないんですよね?」
素直に疑問を投げかける。今ならはぐらかさずにすべて話してくれる気がするのだ。
「もちろんそれを覆すのが例の薬さ。お前は覚えてないかもしれんが、能力者はみなAH総合病院で一度は能力覚醒用の薬物を投与されている。それによって超常的な力が発現しているだけだ」
瀬奈さんが頬杖をつく腕を変える。私はカフェラテを一口含むと、ゆっくりと味わってから飲み込んだ。