-第十八章- 鮮血と珈琲と(1)
-前回のあらすじ-
藍沢蓮を追う陸斗は、駅前で不審な人物と遭遇する。
ハンドガンを片手に困惑する神城さんを後目に、私たちは拠点を出発した。目的地も聞かされぬまま、私と瀬奈さんは藍沢さんの後を追って行く。
「もうこのあたりまで来りゃあ、大丈夫だろ」
「えと、何がでしょう?」
私は思わず聞き返してしまった。
「目的地だ。カフェ、テラリアってとこにこれから行く」
こんな人もカフェに行くのか、と意外に思ってしまう。少ししてから、偏見は良くないと自分の中で反省した。
「ああ、前言ってた常連の喫茶店だっけ?」
どうやら瀬奈さんは、そのカフェのことを聞いたことがあるようだ。どんなカフェなのだろう。藍沢さんの見た目や性格からして、かわいらしい店ではないような気がする。おしゃれな店だろうか。ジャズなんかかかってたりして。勝手な妄想がつぎつぎに頭の中を駆け巡る。
駅前の信号を渡ると、そのまま構内へと入っていった。このなかにあるのだろうか。
「ったく日曜の午前中だってのに、なんでこんなに人がいるんだ」
駅構内は観光客などでごった返している。とはいえ、おそらく通勤ラッシュのときなどは今以上に混雑しているのだろうけれど。
私の予想とは違い、先を行く二人はそのまま駅の反対側の通りへと抜けた。
カフェテラリアは、駅をぬけてすぐの細い路地の右手にある、小さな店だった。外観はカフェというより喫茶店といった感じで、落ち着いた古風な扉が独特の雰囲気醸し出している。
「いらっしゃい。ああ、藍沢君か。いつもの席なら空いているよ」
藍沢さんよりは年上だろうか。白髪のマスターが安心感のある声色でそう言った。休日の午前中ということもあり、まだ店内には私たちのほかに客がいる気配はない。
藍沢さんに連れられるまま、店の奥にある半個室のテーブルへ着いた。
「ずいぶんとかわいらしいお客様ですね。双子ですか?」
マスターは気が効かせて私たちにも声をかけてくれる。
「ええ、そんなところです」
返答に迷っていると、隣で瀬奈さんがそう答えた。
瀬奈さんいわく、私も苦いのが苦手とのことだったので、砂糖多めのカフェラテを注文した。一方藍沢さんは、「いつもの」という常連感満載な注文をしていた。
「お前たちが訊きたいのは凛のことだろう?」
藍沢さんはいつもになくまじめな表情だ。
「そうです。そもそもどうして姉ということになっているなんて回りくどい言い方したんですか?それに、どうして凛さんは生きてるんですか?」
「まぁそうあわてるな。順を追って話してやるさ」
藍沢さんは、椅子に深く座りなおすと、改めて昔の出来事を語り始めた。