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円い十字架  作者: M.P.P
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-第十七章- 暗雲(1)

-前回のあらすじ-

 襲撃を受けたくーちゃんは、シャワーをあびて、瀬奈の服を借りる。

 一人残された拠点は、日が昇ったというのに薄暗い。元が倉庫だったこともあり、また窓が少ないから当然なのだろうが、埃っぽさも憂鬱な気分を増幅しているように感じる。


 藍沢さんの話を聞けば聞くほどに、彼のことを信用できなくなる自分がいる。何か隠しているのはもう間違いのないことなのだが、それ以上に疑わしさを感じるのだ。右手に握りしめられたハンドガンが、隙間からさす日に照らされて黒光りしていた。


 部屋の隅を歩くと舞い上がる埃が、自分の中で膨らみつつある疑念をさらに後押しする。気付けば俺は藍沢さんの抱えていた鞄の前に立っていた。彼は敵なのか味方なのか。そして本当に信用してしまってよいのか。


 そもそも俺が彼の存在を知ったのはつい先日のことだ。それまでは瀬奈からも聞いたことはなかった。だがあの様子からして、瀬奈が意識を失う以前から面識があり、しかもそれなりに親しい仲だったようだ。よく考えれば不自然ではないか。―嫉妬ではない。自分の感情を抜きにしても、高校生である瀬奈と中年の藍沢さんとが知り合う機会などそうはないだろうし、二人が並んで歩いているだけでも違和感がないと言ったら嘘になる。


 思考を巡らせていると、壁にかかった鍵が藍沢さんの鞄の中へ静かに落ちた。鞄のチャックくらいきちんと閉めたらどうかと思いつつ、鍵を中から取り出す。


 銀。鋭い。プラスチックの安っぽい容器。目盛り。そしてそれとともに袋に入った白い粉。心臓が高鳴るのが分かる。やはりここにいるのは危険だ。藍沢さん―否、それが実名とも限らないのだ―が戻ってくる前に脱出すべきか。それとも瀬奈の帰りを待つべきか。


 少し冷静さを取り戻し始めた時、左手がジンジンと痛むのを感じた。鍵を取るために左手に持ち替えたハンドガンを、これでもかというほど強く握りしめてしまっていたのだ。手のひらにはグリップに刻まれた刻印がしっかりと読めるほどに写っていた。


 これは唯一の救い。そして俺にとって最高の武器なのだ。俺にとってのハンドガンは、プロのスナイパーより良く当たる。それを知っていて藍沢さんは俺にこれを渡したのか。何故―。俺が敵対することはないと踏んでいたのだろうか。


 不安と疑問が次々に押し寄せてくる。まず一つ、はっきりさせておかなければならないことは、藍沢さんの鞄の中身が何なのかということだ。仮に白い粉がただのうま味調味料か何かだとしよう。だがそれでは注射器の説明がつかない。


 では事件とは無関係に薬物常習犯だとしたらどうか。それはそれで瀬奈に接触させるのは危険極まりない。やはり瀬奈を連れて逃げるのが得策か。


 ここまで考えたところで、俺の頭にぬぐいきれない最悪のパターンが思い浮かぶ。もしこの薬物が、あのとき俺が飲ませられたものと同一だとしたら。彼は能力者が三人も集まるコミュニティに潜入した、狡猾な研究者だということになる。これは彼の言っていた「能力に詳しい」ということにもつながる。そして何より、能力者事件に巻き込まれたらしい「凛さん」という人物に詳しいことも説明がつく。


 その思考を否定しようとすればするほど、すべての事象に合致していく。よく考えれば、帰ってきたタイミングも不自然ではないか。なぜ秋葉原での蒸発事件直後に、しかもクーちゃんが襲われるタイミングで帰ってきたのか。すべては彼の手のひらの上で踊らされているだけではないか。


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