-第十六章- 藍沢凛(3)
-前回のあらすじ-
襲撃されて洋服が汚れてしまったくーちゃんは、拠点でシャワーを借りる。
少ししてシャワーが暖かくなり始めた。指先で温度を確認すると、汚れを洗い流すようにお湯を体へと流す。白い湯気が立ち込めるなか、私の脳裏で凛さんから流れる血がフラッシュバックする。研究室でナイフをつきたてていた凛さん、そして銃撃を受けながらも私を守ってくれた凛さん。なぜ彼女は生きていたのか。そしてなぜ私を助けてくれたのか。
「外も明るくなってきたし、二人分まとめて着替えとってくるよ」
トオルの声が聞こえた。きっとスカートを汚してしまったことに気付いて、それで手を焼いてくれたのだろう。下着の類もあるのだから、自分で行きたい気もする。だが今はここで落ち着いていたかった。
瀬奈さんの服を借りて脱衣所を出ると、倉庫の入口から朝日が差し込んでいた。そこにはもうトオルの姿はなく、他の三人が輪のように座っている。クローンなのだから当然なのだが、瀬奈さんの服はまるで自分のものであるかのように体になじむ。
「こんだけ明るくなりゃもう大丈夫だろ」
藍沢さんはこちらを向くと、ため息交じりでつぶやいた。藍沢さんに聞きたいことがまた一つ増えてしまった。間違えなく彼は何か知っている。凛さんが死んでしまったことを話すときも、彼女に再び会ったことを伝えたときも、全く動揺するそぶりをみせないのだから。
私は勇気を出してそれを口に出そうとする。
「あの、藍沢さ……」
「おっと、その話はもうちょっと待ってくれ。聞きたいことがあるんだろ?だったらちょいと場所を移そうか」
私が話し始めるとすぐ、藍沢さんはそう割り込んだ。何か事情があるのか、それともまたはぐらかすのか。
「瀬奈。俺と一緒についてきてくれ。またこいつが狙われないとも限らない。そんで陸斗。悪いが留守を頼めるか?俺の商売道具を置いていくから、ここを荒らされるわけにもいかないんでな」
藍沢さんは立ち上がると、指示を出し始めた。当の本人は旅行鞄の中から小ぶりな肩掛けバッグを取り出し、そこに携帯などをしまっているところだ。
「敵に場所がばれてるってことですか」
神城さんが語気を強めて問う。
「ああ、その可能背は否定できねぇな。一応コイツをわたしとくから、うまく使えよ?」
藍沢さんはいつものごとくにやりと笑うと、小ぶりなハンドガンを手渡すのが見えた。いったい彼は何者なのか。
瀬奈さんも自分の鞄に軽く荷物を詰めると、出入り口へと向かった。藍沢さんと私もそれに続く。どこへ向かうのだろうか。そして私は真実を手に入れられるのだろうか。不安半分、期待半分といったところだ。扉の外は、完全に日が昇りきった世界が広がっていて、それがとてもまぶしく感じた。