-第十六章- 藍沢凛(2)
-前回のあらすじ-
朝食の買い出しに向かったくーちゃんだったが、怪しい集団に囲まれ、銃を突きつけられてしまう。
だが不思議と痛みも衝撃もなかった。目を開けると真っ赤な血が視界に入る。
「貴様ら、女の子一人を囲んで銃をむけて。恥ずかしいと思わないのか!」
安心感のある力強い声。目の前に、肩から血を流した、見慣れたシルエットが立っていた。
「凛……さん?」
震える声で小さくつぶやく。
「心配かけてすまなかったな。だが今はそうゆっくりともしていられん。ここは私に任せて、お前は逃げろ。私なら大丈夫だ。この程度の人間など、私にかかればどうということはない」
そう言いきるのと凛さんが動きだすのとどちらが先だったか、私には判らなかった。それほどに素早い動きで銃を持った男に向かってとびかかったのだ。
再び銃声が響く。凛さんの口から苦しそうな声が漏れる。血しぶきが上がり、弾が凛さんに命中したのだとわかる。しかし、彼女の勢いが衰えることはない。私は逃げなくてはならないと強く思った。凛さんがここまでして私を守ってくれているのだ。ここで死ぬわけにはいかない。
私は震える足で立ち上がると、袋を拾いなおしてふらつきながらもその場を後にした。濡れたスカートが太ももに張り付く。それでも立ち止まらずに歩き続けた。去り際に後ろを振り返ると、気を失った男の手元から、拳銃が蹴り飛ばされるのが見えた。ほかの男たちもひるんで凛さんから距離をとっている。ゆっくりと歩いている暇はない。再び前に向き直ると、拠点へ向けて歩みを進めた。
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拠点の戸をたたくと、中から瀬奈さんが鍵を開けてくれた。
「おかえり。ずいぶん時間かかってたけど並んで……え?どうしたの?大丈夫?」
瀬奈さんが心配そうに私に問いかける。その様子に気付いたのか、他の仲間たちも玄関に駆けつける。みんなに会えた安堵からか涙があふれ出す。
「凛さんが……凛さんが死んじゃう!」
何から話していいのか分からず、ただひたすらにそう叫んだ。
「あいつに会ったのか」
藍沢さんがつぶやいた。私は必死でうなずく。あの時凛さんには確かに銃弾が命中していた。このままではまた凛さんが死んでしまうのではないかと不安が押し寄せる。
「その、服も汚れちゃってるみたいだし、シャワーでも浴びたら?」
トオルが気を使ってくれたようだ。私は瀬奈さんに案内されるままシャワー室へ向かった。
汚れたスカートと下着を脱ぐ。朝早くから外を歩いていたからか、濡れた下半身はすっかり冷え切ってしまっていた。服を脱衣かごへ放り込むと、シャワールームへ足を踏み入れる。決して広いスペースではないのだが、むしろ今の私には落ち着くことができてちょうどよかったように思える。
ここのところ投稿時間が安定せず申し訳ありません。予約投稿に入れておきますので、明日からはまた20:00更新としたいと思います。