-第十五章- 藍沢蓮(3)
-前回のあらすじ-
藍沢さんが拠点に現れたのち、朝食の買い出し役を決めることとなる。
結果、くーちゃんが買い出しに向かうことになった。残りのメンバーは、拠点で待機していることにした。その間に、もう少し藍沢さんに話を聞いてみようか。
「あの、もう少し凛さんって人のこと教えてもらえませんか?」
俺は丁寧に尋ねる。ここで藍沢さんの機嫌を損ねてしまうのは得策ではない。
「まぁ、当然気になるよな。そう来ると思ったぜ」
藍沢さんは相変わらず口角をあげつつ返答した。瀬奈も気になっているようで、少しずつ前のめりになりつつある。
「あいつとは一応兄弟ってことになってた。俺の姉にな」
姉ということになっていた?一体どういうことだろうか。俺は深く問い詰めようとする。否、決して悪気があるわけではないのだ。妙なはぐらかし方に興味を惹かれてしまっただけである。
「おっと、『なっていた』ってのはどういうことかって聞きたいんだろ?」
図星だった。予想以上に鋭い人なのかもしれない。
「私も知りたい!」
隣から案の定瀬奈が会話に割り込んできた。トオルは少し離れたところから、それでも十分に関心をもって話を聞いていた。
「俺は昔、凛やほかの連中と研究をしていたんだ。そんであるとき実験が必要になってな。ちょうどそのころ事件が起きて、それについては深く詮索しなで欲しいところだが、そのせいで俺たちはあいつを実験台にせざるを得なくなったってわけだ」
懐かしそうに語り始めた。だがその眼は、どこか寂しそうにも見える。
「実験はある意味では成功した。だが凛の野郎は記憶もなにも全部失っちまった。だから俺はあいつに偽の記憶を上書きして、俺の姉として生きてもらうことにした。そういうわけさ」
話し終えるとすっきりしたのか、藍沢さんはため息をついた。
「つまりは、もともとは全くの他人だったってことですね?」
少し離れて立ち聞きをしていたトオルが口を開いた。あくまで確認のつもりだろうが、ずいぶんと語気が強くなっていた。藍沢さんがそれを肯定する。だが、俺はもう一つ重要なことに気付いていた。
「さっき『記憶を上書きした』って言ってましたけど、あなたも能力者なんですか?」
隣で瀬奈が難しい顔をして唸っている。どうやら何か思うところがあるようだ。だが、それを待たずして、藍沢さんが返答した。
「いや、そういうわけじゃねぇ。そこはちょっとした裏技があってな。ま、そのあたりはこれ以上は知らない方が身のためだぜ?」
藍沢さんは神妙な顔をやめ、再びいたずらっぽくにやりとした。やはりどこかはぐらかされたような気分になりながらも、いったんこのあたりで話を切り上げることにした。これ以上問い詰めたところで埒が明かないだろう。
瀬奈とトオルもあきらめたようで、各々暇をつぶしつつ、くーちゃんの帰りを待つことにした。