表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円い十字架  作者: M.P.P
35/102

-第十三章- 鏡面化(2)

-前回のあらすじ-

 能力を使って「今日死亡する可能性の高い人間」を発見した陸斗は、その人物を追って秋葉原へ向かう。

影に気が付いたのはその時だった。ちょうど裏通りの豚骨ラーメン店のビルの上から、何者かの影が『跳んで』きたのである。影はそのまま隣のビルへ飛び移るとどこかへ姿を消した。


 再びその数字の方へ目を向けると、俺は衝撃を受けた。その数字に変化が現れたからである。『57.2%』上昇している。数字はなおも上昇を続けながら裏通りに立ち尽くしている。まるで凍り付いたようだ。


 ―とその時だった。一瞬その数字の周辺がぐにゃりとゆがんだかと思うと、真っ白に発光を始めた。あまりのまぶしさに目がくらみ、少しふらつく。焦げ臭い。今まで嗅いだことのないような焦げ臭さだ。あまりの異常な光景に顔をしかめていると、となりにいた人に肘が当たった。


「あ、すみません」


俺は素直に謝った。


「いえ…、って神城さんじゃない。どうしてここに?」


そこにいたのはくーちゃんだった。彼女もまた、目の前で起きた光景が信じられないといった様子で目を丸くしていた。


 俺はなおも目を離すことができず、ただ茫然と白い光を見つめていた。ずいぶん時間が立ったような気がして、その後その光はだんだんと小さくなっていった。光が完全に消えるまでの数秒間、俺は信じられないものを目にした。空間が鏡のように光を反射させていたのだ。明らかに悪意を持って計算された反射角で、中央の人間に光を集中照射するような形で。光が完全に収まると、俺とくーちゃんは光があった場所へ駆け寄った。周囲の人々はいまだ状況が飲み込めず右往左往している。


「なに、これ…。これが人間だったもの…?」


くーちゃんが今にも泣きそうな声で震えながら言う。そこには蒸発し残った、もはや液体と化した人間だったものがあった。唯一骨だけは溶けずに残っていた。死体の下には小さな黒い十字架が無数に刻まれている。だんだんと周囲の人々も状況を理解しはじめ、困惑の念は恐怖へと変化する。気が付いた時には叫び声、逃げ出す人、暴れだす人、そんな人ごみに流され、中央通まで押し戻されていた。


 再び駅前に戻った俺は、仲間と連絡を取ることにした。先ほどの騒ぎでくーちゃんともはぐれてしまったから、彼女にも連絡する必要があるだろう。俺は携帯を探すためカバンに手を入れて、黒い炭酸飲料を持っていることに気が付いた。そのままそれを取り出してキャップを開ける。プシュッと心地よい音がなる。ずっと鼻について消えない、人の焼けこげる臭いを何とかして忘れたかった。だがそんな俺の願いとは裏腹に、のどを流れ落ちる炭酸飲料ですら、死の臭いをかき消すことはできなかった。あきらめて携帯を取り出す。今朝交換した連絡先の上から順に電話を掛けていくことにした。


 しばらくして、おそらく最も近くにいたと思われるくーちゃんが駅前に現れた。彼女も俺同様あの臭いが忘れられないようで、しきりに鼻をこすっている。何故臭いばかりこうも気になるのだろう。それは視覚情報があまりにも突飛すぎて信じられなかったからだろうか。確かに骨だけが道のど真ん中に転がっていたところで現実味はかけらもない。だがそれを思い出すと同時にあの得も言われぬ焦げ臭さが思いだされる。少しばかり顔をしかめたところでトオルが姿を現した。彼もまたどこか疲れ切っているように見える。それは気のせいだろうか。


「人が蒸発したってどういうことだ?」


トオルが怒鳴り気味に俺に問いかける。それに対し俺は先ほどの出来事をかいつまんで説明した。今すぐ身に行くべきだというトオルを何とかなだめ、瀬奈を待つことにした。

 瀬奈が姿を見せたのは、それからもう少ししてからだった。彼女は携帯の画面をにらみつけたまま、こちらへ速足で近づいてくる。


「リク、あなたはいち早くここから離れなさい。事件が起きたのなら警察が来る。仮にもあなたには死体遺棄の疑いがかかっているのよ?」


瀬奈いわく、俺たちの逃走は警察の間では知れ渡っているらしい。トオルの提案で、俺と瀬奈は一度倉庫へ帰ることとなった。興味はあるが、また病院に連れ戻されたのでは元も子もない。仕方なく徒歩で神田の倉庫まで向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ